土星の衛星エンケラドゥスの間欠泉とは?地下の海に生命はいるのか

土星の衛星エンケラドゥスの間欠泉とは?地下の海に生命はいるのか 宇宙ニュース
NASA/JPL/Space Science Institute 探査機カッシーニが撮影した、エンケラドゥスの南極付近の割れ目「タイガーストライプ」から、大小の噴出が氷の粒を噴き出している様子です(2010年公開)

土星の周りを回る小さな衛星エンケラドゥスは、南極から宇宙に向かって水を噴き出しています。そのもとは、厚い氷の下に広がる海だと考えられています。

2026年9月には、噴き出した氷の粒を一粒ずつ調べれば、生命の痕跡を見つけやすいかもしれないという研究も発表されました。この記事では、エンケラドゥスについて分かっていることと、最新の研究を紹介します。

概要

エンケラドゥスは、直径が約500キロメートルしかない土星の衛星です。日本では「エンケラドス」「エンセラダス」とも表記されます。NASAによると、表面は太陽系で最も白く、光をよく反射する氷に覆われています。

NASAの探査機カッシーニの観測から、この氷の下には衛星全体に広がる海があることが分かりました。NASAは、エンケラドゥスには生命に必要な材料がほぼすべてそろっているとしていて、地球の外で生命を探す有力な候補の一つになっています。

確かな事実として分かっていること

カッシーニが見つけた南極の噴出

カッシーニは、1997年に打ち上げられ、2004年6月に土星を回る軌道に入りました。2005年2月、エンケラドゥスのそばを通ったカッシーニは、南極の上空で土星の磁場がわずかに曲げられていることに気づきます。

その後さらに近づいて調べた結果、南極付近の「タイガーストライプ」と呼ばれる割れ目から、水蒸気や氷の粒が噴き出していることが分かりました。割れ目のあたりは、周りより温かくなっています。噴き出した氷の粒は、土星の周りに広がる薄い環「E環」のもとにもなっています。

氷の下に広がる海

2015年9月、NASAは、エンケラドゥスの氷の下に衛星全体に広がる海があると発表しました。カッシーニが長年撮影した多くの画像から、土星を回るエンケラドゥスのわずかな揺れを精密に調べた結果です。

その揺れの大きさは、外側の氷の殻と内部が固くつながっていないと説明できませんでした。つまり、氷と岩石の核の間に液体の海があるということです。南極付近の氷は薄く、数キロメートルほどと考えられています。

噴出の中を飛んだカッシーニ

カッシーニは何度も噴出の中を通り抜け、噴き出した物質を直接調べました。2015年10月28日には、南極の上空約49キロメートルという低さを通過しています。

そして2017年9月15日、カッシーニは土星の大気に突入して運用を終えました。制御できなくなったカッシーニがエンケラドゥスなどの衛星に落ちて、地球の物質で汚してしまうのを防ぐためでした。

海の底に熱水がある証拠

2015年3月には、カッシーニがとらえたごく小さなシリカ(二酸化ケイ素)の粒から、海の底で熱水の活動が起きている可能性が発表されました。東京大学の関根康人らのチームは実験で、この粒ができるには少なくとも90度の熱水が必要なことを確かめています。

2017年4月には、2015年10月の接近のときに、噴出の中から水素が見つかったことも発表されました。この水素は、海の底の岩石と温かい水が反応してできたと考えるのが最も自然だとされています。地球の深海の熱水噴出孔では、こうした化学反応のエネルギーを使う微生物が暮らしています。

詳しくはこちら:木星の衛星エウロパの地下の海とは?探査機エウロパ・クリッパーが挑む謎

生命の材料、リンと有機物

2023年6月には、ベルリン自由大学などの欧米のチームと、東京工業大学(当時)の関根康人らの日本のチームが、エンケラドゥスの海にリンが多く含まれていると発表しました。リンは、生命に欠かせない元素の一つです。見積もられた海のリン酸の濃さは、地球の海水の数千倍から数万倍にもなります。

2025年には、カッシーニが2008年に集めた氷の粒を分析し直した研究も発表されました。噴き出してからわずか数分しかたっていない新鮮な粒にも、さまざまな有機分子が含まれていたのです。有機物が宇宙空間で長い時間をかけて作られたのではなく、海の中にあることを示す結果とされています。

ウェッブがとらえた巨大な噴出

2023年5月には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、エンケラドゥスから9600キロメートル以上も広がる水蒸気の噴出をとらえたと、NASAが発表しました。エンケラドゥスの直径の20倍を超える長さです。NASAによると、1秒あたり約300リットルの水が噴き出していると見積もられています。

2026年9月の最新の研究

2026年9月25日、ドイツのベルリン自由大学などの国際チームが、科学誌サイエンス・アドバンシズに新しい研究成果を発表しました。噴き出す海水のしずくは一瞬で凍るのではなくゆっくり凍るため、その間に塩や有機物が、しずくの中の別々の場所に分かれていくというものです。

凍ったしずくはその後、細かく砕けます。研究チームによると、もし海に微生物がいれば、その成分は一部の粒に濃く集まる可能性があり、これからの探査機が一粒ずつ調べれば、今ある技術でも比較的見つけやすいといいます。

同じ発表では、沖縄トラフの深海の熱水噴出孔で見つかったメタン菌を、エンケラドゥスの海をまねた、強いアルカリ性で酸素がほとんどない環境で育てた実験の結果も報告されました。メタン菌は増え続け、メタンを作り出したといいます。

語られている主な説

海の底で微生物が生きているという説

熱水の証拠や水素、リン、有機物が見つかっていることから、エンケラドゥスの海には微生物がすめるかもしれないという説があります。水素は、地球の熱水噴出孔にいるような微生物のエネルギー源になりうるとされています。

有機物は放射線で作られたという見方

一方で、噴出から見つかった有機物の一部は、海の中ではなく、表面の氷が土星の周りの放射線を浴びてできたものかもしれないという研究もあります。2025年9月、イタリア国立天体物理学研究所の研究者が、エンケラドゥスの表面をまねた氷にイオンを当てる実験で、アミノ酸のもとになる分子などができたと発表しました。

ただしこの研究者も、エンケラドゥスの海が生命のすめる環境である可能性を否定するものではないとしています。また、噴き出して数分の新鮮な粒から有機物が見つかった研究は、有機物が海から来たという考えを支えています。

今も残る謎

一番の謎は、エンケラドゥスの海に本当に生命がいるのかどうかです。カッシーニの観測では、生命そのものは見つかっていません。

小さな衛星の海が、なぜ凍らずにいられるのかも、はっきりしていません。土星の重力で内部がもまれて生まれる熱(潮汐加熱)が有力だとされていますが、詳しい仕組みはまだ分かっていません。

答えに迫るため、ESAは2024年、エンケラドゥスを次の大型ミッション「L4」の最有力の目的地に選びました。南極に着陸して、噴き出した海の物質を調べる計画です。2040年代の初めの打ち上げを目指して、検討が進められています。

まとめ

エンケラドゥスは、直径約500キロメートルの小さな衛星ながら、氷の下に全体に広がる海を持ち、南極から宇宙へ水を噴き出しています。カッシーニの観測で、熱水の証拠や水素、リン、有機物が見つかりました。

2026年9月には、噴き出す氷の粒を一粒ずつ調べれば、生命の痕跡を見つけやすいかもしれないという研究も発表されました。本当に生命がいるのかどうか、その答えはESAの探査計画などに託されています。

僕のひとりごと

僕がいちばんワクワクしたのは、探査機が海に潜らなくても、噴き出した水の中を飛ぶだけで、地下の海を調べられるということです。直径500キロメートルほどの小さな衛星が、自分から海のサンプルを宇宙に届けてくれているようなものですよね。

沖縄の深海で見つかったメタン菌が、エンケラドゥスの海をまねた環境で増えたという話も、地球と土星の衛星がつながったようでうれしくなりました。2040年代の探査が、どんな答えを持ち帰ってくれるのか楽しみです。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA/JPL/Space Science Institute 探査機カッシーニが撮影した、エンケラドゥスの南極付近の割れ目「タイガーストライプ」から、大小の噴出が氷の粒を噴き出している様子です(2010年公開)

この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。

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