ユークリッド宇宙望遠鏡とは?空の3分の1を描く宇宙地図づくりの今

ユークリッド宇宙望遠鏡とは?空の3分の1を描く宇宙地図づくりの今 宇宙ニュース
ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi(CC BY-SA 3.0 IGO https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/igo/ 、ESA経由) ユークリッドが2023年11月に公開した最初のフルカラー画像の1枚で、約2億4000万光年先のペルセウス座銀河団です

空のおよそ3分の1を、6年かけて端から端まで撮影する。そんな大がかりな計画に挑んでいるのが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ユークリッド」です。

目指すのは、10億個を超える銀河の位置や形を記録した、これまでで最も大きな宇宙の立体地図です。この記事では、2023年の打ち上げから2026年までに分かってきたことと、これからの予定を紹介します。

概要

ユークリッドは、ESAが中心となってつくった宇宙望遠鏡です。名前は、幾何学の基礎を築いた古代ギリシャの数学者ユークリッド(エウクレイデス)にちなんでいます。

口径1.2メートルの望遠鏡に、可視光で銀河の形を細かく写すカメラ「VIS」と、近赤外線で銀河までの距離を調べる装置「NISP」を積んでいます。NISPの検出器はNASAが提供し、日本をふくむ各国の2000人を超える研究者が計画に加わっています。

一番の目的は、宇宙の「暗い」部分の正体に迫ることです。ESAによると、宇宙の中身の約95%は、目に見えないダークマターと、宇宙の膨張を加速させているダークエネルギーだと考えられています。

詳しくはこちら:ダークマターとは?宇宙の4分の1を占める見えない物質の謎

詳しくはこちら:ダークエネルギーとは?宇宙の膨張を加速させる正体不明の力

確かな事実として分かっていること

ロシアのロケットからアメリカのロケットへ

ユークリッドは、もともとロシアのソユーズロケットで打ち上げる予定でした。ところが、ウクライナ侵攻をめぐるヨーロッパの制裁に反発したロシアが、2022年2月、ソユーズによる打ち上げから手を引きました。

そこでESAは2022年10月、アメリカのスペースX社のファルコン9ロケットに乗り換えることを決めました。そして2023年7月1日(日本時間7月2日)、ユークリッドはアメリカ・フロリダ州のケープカナベラルから打ち上げられ、約1か月かけて、地球から約150万キロメートル離れた「ラグランジュ点L2」の周りの軌道に入りました。

2023年11月に公開された最初の画像

2023年11月7日、ESAはユークリッドが撮った最初のフルカラー画像5枚を公開しました。その1枚が、約2億4000万光年先にあるペルセウス座銀河団です。銀河団に属する約1000個の銀河に加えて、その奥にある10万個を超える遠くの銀河まで、1枚の画像に写し出しました。

広い範囲をくっきりと一度に写せるというユークリッドの持ち味が、最初の画像からはっきり示されました。そして2024年2月14日、ユークリッドは6年間の本格的な観測を始めました。

鏡にできた薄い氷

観測を続けるうちに、思わぬ問題も見つかりました。可視光のカメラに届く星の光が、少しずつ弱くなっていたのです。原因は、地上で組み立てていたときに機体の断熱材が吸い込んだ水が宇宙で少しずつ出てきて、冷たい鏡の上で氷になったことでした。

氷の厚さは、数ナノメートルから数十ナノメートルほどと見積もられました。そこでチームは2024年3月、鏡を1枚ずつ温める作戦を実行しました。最初の鏡をマイナス147度からマイナス113度まで34度温めると、届く光はすぐに約15%増えました。

宇宙地図の「最初の1ページ」

2024年10月15日、ESAは、ユークリッドがつくる巨大な宇宙地図の最初の一部を公開しました。2024年3月25日から4月8日までの約2週間に行った260回の観測をつなぎ合わせたもので、2080億画素にもなる画像です。

写っている範囲は南の空の132平方度で、満月500個分を超える広さです。それでも、6年間で撮る予定の範囲の約1%にすぎません。約1億個の星や銀河が写っていて、そのうち約1400万個の銀河が、ダークマターやダークエネルギーの研究に使えるとされています。

深宇宙のデータと、アインシュタイン・リング

2025年3月19日には、最初のまとまった観測データが公開されました。何度も重ねて撮影し、ほかの場所より深く調べる3つの「深宇宙領域」の、合わせて約63平方度のデータです。1週間ほどの観測で約2600万個の銀河が見つかり、最も遠いものは約105億光年先にあります。

このとき、500個ほどの「強い重力レンズ」の候補も公開されました。手前の銀河の重力で奥の銀河の光が大きく曲げられ、ゆがんだり輪のように見えたりする現象です。

その美しい例が、2025年2月に発表された「アインシュタイン・リング」です。約5億9000万光年先にある、りゅう座の銀河NGC 6505の周りに、約44億光年先の銀河の光が輪になって写っていました。2023年9月の試験観測の画像に、ESAの科学者が気づいたのがきっかけでした。

2026年に届いた新しい成果

重い銀河団の重力は、奥にある銀河の形をほんの少しずつゆがめます。この「弱い重力レンズ」のゆがみを数千個の銀河で調べると、目に見えないダークマターの分布が分かります。2026年6月、研究チームは、銀河団「Abell 2390」の観測データから、ユークリッドでこのゆがみを高い精度で測れることを示しました。

6月24日には、天の川銀河の中心部を約26時間かけて撮影した画像が公開されました。6000万個を超える星が写っていて、星の光のわずかな変化から、惑星を見つけたりその重さを量ったりするのに役立つと期待されています。

7月6日には、初期の宇宙で輝く「クエーサー」を31個見つけたと発表されました。クエーサーは、銀河の中心にある巨大なブラックホールに物質が落ち込み、強い光を放っている天体です。そのうち2個は、宇宙が生まれて約6億7000万年後、今の宇宙の年齢のわずか5%ほどの時代のもので、発表の時点で観測史上最も古いクエーサーでした。

この研究には、愛媛大学や早稲田大学の研究者も加わっています。最も古い2個の候補の絞り込みには、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC)のデータが使われました。

これから期待されていること

ユークリッドは、空のおよそ3分の1にあたる約1万4000平方度を撮影する計画です。2025年3月の時点で、その約14%にあたる約2000平方度の観測が終わっていました。

遠くの銀河ほど、昔に出た光が届いています。そのため、銀河を立体的に並べた地図からは、約100億年前までさかのぼって、宇宙の構造が育ってきた歴史をたどれます。そこから、ダークマターの集まり方や、ダークエネルギーが宇宙の膨張に与えてきた影響を読み解こうとしています。

次の大きな節目は、最初の1年分の観測をまとめたデータの公開です。ESAによると、2026年11月に約1900平方度分の画像やカタログなどを公開し、銀河の分布や弱い重力レンズを調べるための、より高度なデータは2027年の半ばに公開する予定です。ユークリッドのデータを使った宇宙論の最初の結果も、2027年に出る見込みです。

今も残る課題

鏡の氷は、一度取り除けば終わりではありません。氷はまたたまっていくと考えられていて、ESAは、温めて取り除く作業を6か月から12か月ごとにくり返し、ユークリッドの運用の大切な一部にするとしています。

データの多さも、うれしい悩みです。最初の本格的なデータ公開は2026年10月の予定でしたが、ESAは2026年6月、広い範囲の高度なデータを確かめるのにさらに時間が必要だとして、公開を2段階に分けると発表しました。

そして何より、ダークマターとダークエネルギーの正体は、まだ分かっていません。答えに近づけるかどうかは、本格的な解析が進むこれからにかかっています。

まとめ

ユークリッドは、2023年7月に打ち上げられたESAの宇宙望遠鏡です。鏡にできた氷を取り除くといった苦労を乗り越えながら、2024年2月から、空のおよそ3分の1を撮影する6年間の観測を続けています。

宇宙地図の最初の一部や最も古いクエーサーの発見など、成果も届き始めました。2026年11月からの本格的なデータ公開で、ダークマターとダークエネルギーの謎にどこまで迫れるのかが注目されます。

僕のひとりごと

僕が一番おもしろいと思ったのは、最新の宇宙望遠鏡が、鏡にできたほんの数ナノメートルの氷に悩まされていたという話です。鏡を34度温めただけで光が約15%も戻ったと知って、宇宙の観測も意外と地道な工夫に支えられているんだなと感じました。

2080億画素の画像でさえ、完成する地図の約1%にすぎないというのも、気の遠くなるようなスケールです。目に見えないダークマターを、銀河のわずかなゆがみから地図にしていくという発想にもワクワクします。11月のデータ公開から、どんな発見が飛び出してくるのか楽しみです。

参考情報

アイキャッチ画像:ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi(CC BY-SA 3.0 IGO https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/igo/ 、ESA経由) ユークリッドが2023年11月に公開した最初のフルカラー画像の1枚で、約2億4000万光年先のペルセウス座銀河団です

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