バレンティッチ失踪事件とは?謎の光を無線で伝えて消えたパイロット

バレンティッチ失踪事件とは?謎の光を無線で伝えて消えたパイロット UFO・UAP
NASA 2025年11月2日に国際宇宙ステーションから撮影された、オーストラリアのタスマニア島の北部と、日の光を反射するバス海峡です。事件当時の写真ではありません

1978年10月21日の夜、オーストラリア南東部のバス海峡の上空で、1機の小型機が消息を絶ちました。操縦していたのは、20歳のパイロット、フレデリック・バレンティッチです。

彼は消える直前の約6分間、正体の分からない光る物体が頭上にいると、無線で伝え続けていました。大がかりな捜索でも、本人と機体は見つかりませんでした。この記事では、公式の記録から分かることと、語られている説を分けて整理します。

概要

バレンティッチは、メルボルン郊外のムーラビン空港から、バス海峡に浮かぶキング島へ向かっていました。海岸ぞいにケープ・オトウェイという岬まで飛び、そこから南へ海を渡る計画でした。

午後7時すぎ、彼は運輸省のフライト・サービス(飛行中の機体に情報を伝える部署)と、頭上の謎の物体をめぐる奇妙なやりとりを始めます。交信は午後7時12分ごろに途切れ、運輸省は調査の末、機体が消えた理由は特定できなかったと結論づけました。

確かな事実として分かっていること

ここからは主に、オーストラリアの運輸省が1982年4月27日付でまとめた調査の要約報告書と、当時の報道の内容です。

パイロットと飛行の計画

バレンティッチの飛行経験は約150時間でした。自家用の操縦士の免許を取ってから1年ほどで、見通しのよい天候なら夜でも飛べる資格を持っていました。

空軍のパイロットを目指して2度応募しましたが、学歴が足りないとして採用されませんでした。事業用の操縦士の免許の試験にも、まだ合格していませんでした。

機体は借りた単発機のセスナ182Lで、登録記号はVH-DSJです。無線では、この記号から「デルタ・シエラ・ジュリエット」と呼ばれています。

飛行計画では、高度は5000フィート(約1500メートル)より下で、ケープ・オトウェイまで41分、そこからキング島まで28分の予定でした。燃料は満タンで、300分飛べる量がありました。

報告書によると、彼はキング島で友人を乗せると話し、救命胴衣を4着積んでいました。エビ(クレイフィッシュ)を受け取りに行くという話も伝えられましたが、どちらにも裏付けは見つかっていません。夜に着く予定なのに、キング島の滑走路の明かりをつけてもらう手配もしていませんでした。

土曜日だったこの日、彼は午後6時19分に離陸し、午後7時にケープ・オトウェイに着いたと報告しました。天気は晴れで風は弱く、見通しはとてもよかったと記録されています。

午後7時6分からの約6分間

日没から20分あまりたった午後7時6分、バレンティッチは、5000フィートより下にほかの機体がいないかを尋ねました。答えは、知られている機体はいないというものでした。

すると彼は、大きな機体のようなものがいて、4つの明るい光が着陸灯のように見えると伝えます。続けて、その機体が少なくとも1000フィート(約300メートル)上を通り過ぎたと報告しました。このときの高度は4500フィート(約1400メートル)でした。

さらに、物体が真東から近づいてくる、何かの遊びをしているかのように何度も頭上を飛ぶ、と伝えています。空軍の機体が近くにいないかとも尋ねましたが、フライト・サービスの答えは、近くに知られている機体はないというものでした。

形を聞かれると、細長い形で、速すぎてそれ以上は分からないと答えました。その後、物体は止まっているように見え、自分が旋回すると物体も頭上を回っている、緑色の光があって外側は金属のように光っている、と説明しています。

やがて彼は、エンジンの回転が不安定になり、せき込むような状態だと伝えました。これからどうするかを聞かれるとキング島へ向かうと答え、あの奇妙な機体がまた頭上に浮かんでいる、それは航空機ではない、という趣旨の言葉を続けました。

途切れた交信と捜索

最後の送信では、呼び出しの言葉のあと、言葉のないまま17秒間、送信状態が続きました。午後7時12分28秒に始まったこの送信が、機体からの最後の電波です。当時の新聞は、交信が途切れる前に、フライト・サービスの職員が金属的な音を聞いたと報じています。

キング島に着くはずの時刻を過ぎた午後7時33分には遭難の段階が宣言され、捜索が始まりました。空軍の哨戒機も加わり、空と海と陸から10月25日まで捜しましたが、機体の跡は見つかりませんでした。

運輸省の結論

運輸省の要約報告書は、機体が消えた理由は特定できなかったと結論づけました。パイロットは、亡くなったと推定されています。

5年後に島に流れ着いた部品

事件から約5年後、バス海峡の東側にあるフリンダース島の海岸に、エンジンを覆うカバーの部品(カウルフラップ)が流れ着きました。ある範囲の製造番号のセスナ182の部品と分かり、その範囲にはバレンティッチの機体も含まれていました。ただし、この部品が彼の機体のものだと断定されたわけではありません。

語られている主な説

UFOに連れ去られたという見方

バレンティッチは、UFOに強い関心を持っていました。父親によると、彼は以前にもUFOを見たことがあると話し、UFOに襲われることを心配していたといいます。

父親は事件のあと、息子はほかの星の者に連れて行かれたと信じていると話したと報じられました。UFO研究家の間でも、UFOが機体を壊した、あるいは彼を連れ去ったという説が語られています。

夜の海の上で方向を見失ったという説

一方、懐疑的な研究者や航空の専門誌が唱えているのが、空間識失調による墜落です。空間識失調とは、パイロットが体の感覚にだまされて、機体の傾きや向きを取り違えてしまう状態のことです。

運輸省の担当者も事件の直後から、彼が方向を見失って背面飛行になり、海面に映った光などを見誤った可能性を指摘していました。

2013年には、天文学者でパイロットでもあるアメリカの研究者らが、懐疑的な立場の科学雑誌でさらに踏み込んだ説明を発表しました。当時の空には、金星や火星などの明るい惑星と恒星のアンタレスが、縦長のひし形のように並んで見えていたといいます。

この説では、日が沈んだあとの水平線が傾いて見える錯覚のせいで、機体は旋回しているつもりのまま、らせんを描いて降下していたとします。エンジンの不調は急な旋回で燃料の流れが悪くなったため、緑色の光は自分の機体の右の翼の端にある緑の灯火だった可能性があるとしています。

映画のまねだったのではという見方

懐疑的な立場のアメリカの科学ポッドキャストは、無線のやりとりが、1977年のアメリカ映画『未知との遭遇』の有名な航空管制の場面とよく似ていると指摘しました。彼がいたずらのつもりで映画をまねるうちに、夜の海の上で方向を見失ったのかもしれないという推測ですが、確かめる方法はないとしています。

自分で姿を消したという説

旅の目的の話には裏付けがなく、燃料も予定よりずっと長く飛べる量がありました。そこから、彼がどこかへ飛んで自ら姿を消したという説もあります。事件の夜、ケープ・オトウェイの近くで小型機が謎の着陸をしたという通報が警察にあったとも伝えられています。

ただ、島に流れ着いた部品が本当にこの機体のものなら、機体は海に落ちたことになり、この説は成り立ちにくくなります。

今も残る謎

今回調べた範囲では、機体の本体も、バレンティッチ本人も見つかっていません。島に流れ着いた部品も、製造番号の範囲が合うというところまでで、決め手にはなっていません。

旅の本当の目的や、最後の17秒間に何が起きていたのかも分かっていません。

彼が南の海へ向かったケープ・オトウェイの灯台の下には、失踪を伝える記念のプレートがあります。そこにも、彼の失踪は今も謎のままだと刻まれています。

まとめ

1978年10月21日の夜、20歳のパイロット、フレデリック・バレンティッチは、バス海峡の上空で光る物体を無線で報告したあと、セスナ182Lとともに消息を絶ちました。運輸省は、消えた理由は特定できなかったと結論づけています。

UFOに連れ去られたという見方がある一方、天体の光と空間識失調による墜落という説明も唱えられていますが、50年近くたった今も答えは出ていません。

僕のひとりごと

僕がこの事件で一番胸に残ったのは、文字に起こされた無線の記録を読むだけでも、わずか6分ほどの間に緊張がどんどん高まっていくのが伝わってくるところです。光の正体が惑星だったとしても、ほかの何かだったとしても、20歳の彼の目には、確かに何かが頭上に浮かんで見えていたのだと思います。夜の海の上でひとり無線に向かっていた彼の気持ちを想像すると、UFOの謎という言葉だけでは片づけられない重さを感じました。

アイキャッチ画像:NASA 2025年11月2日に国際宇宙ステーションから撮影された、オーストラリアのタスマニア島の北部と、日の光を反射するバス海峡です。事件当時の写真ではありません

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