コロナ加熱問題とは?表面6000度の太陽で大気が100万度になる謎

コロナ加熱問題とは?表面6000度の太陽で大気が100万度になる謎 未解決ミステリー
NASA/Aubrey Gemignani 2017年8月21日にアメリカ・オレゴン州マドラスで撮影された皆既日食の写真です。月に隠された太陽のまわりに、コロナが白く広がっています

太陽の表面の温度は、約6000度です。ところが、その外側に広がる薄い大気「コロナ」は、100万度を超える高温になっています。

熱を生み出しているのは太陽の中心なのに、そこから遠い場所のほうがずっと熱いのです。ストーブから離れるほど暖かくなる部屋があったら、誰でも首をかしげるはずです。この不思議は「コロナ加熱問題」と呼ばれ、今も完全には解けていません。

概要

コロナは、太陽をとりまく大気のいちばん外側の部分です。ふだんは表面の強い光にかき消されて見えませんが、月が太陽をすっぽり隠す皆既日食のときには、太陽のまわりに白く広がる姿を肉眼で見ることができます。

太陽の表面(光球)のすぐ上には、約1万度の「彩層」があります。その上の薄い「遷移層」で温度が急に上がり、100万度以上のコロナにつながっています。

表面からコロナへエネルギーを運ぶのには、太陽の磁場が重要な働きをしていると考えられています。問題は、そのエネルギーがどうやってコロナで熱に変わるのかという点です。

確かな事実として分かっていること

謎の元素「コロニウム」の正体は鉄だった

この謎の始まりは、19世紀の皆既日食にさかのぼります。1869年8月7日、北アメリカで皆既日食が起き、アメリカの天文学者たちが「分光器」という装置でコロナの光を調べました。

すると、それまで知られていたどの元素にも当てはまらない、緑色の光の筋(輝線)が見つかりました。未知の元素があると考えられ、「コロニウム」という名前まで付けられたほどです。

正体が分かったのは、70年ほど後のことです。1939年にドイツのグロトリアンが手がかりをつかみ、スウェーデンのエドレンが1940年代の初めに、コロナの輝線は、電子の多くを失った鉄などから出ていることを突き止めました。

緑色の光は、本来26個ある電子のうち13個を失った鉄から出ていました。これほど電子がはぎ取られるには、100万度を超える高温が必要です。こうして、コロナが想像をはるかに超えて熱いことが明らかになりました。

日本の「ひので」がとらえた波

コロナの研究で大きな役割を果たしてきたのが、日本の太陽観測衛星「ひので」です。JAXAが国立天文台と協力して開発し、2006年9月23日に打ち上げられました。望遠鏡の開発は、アメリカやイギリスとの国際協力で進められています。

2007年には、ひのでの観測から、磁力線に沿って伝わる「アルヴェーン波」という波が、彩層にたくさんあることが分かりました。

さらに2015年には、JAXAや国立天文台などの国際研究チームが、ひのでとアメリカの太陽観測衛星IRISの同時観測の結果を発表しました。コロナの中に浮かぶガスの雲「プロミネンス」の温度が、波の働きで1万度から少なくとも10万度まで上がる様子をとらえたのです。波のエネルギーが熱に変わる過程を、初めて観測でとらえた成果とされています。

太陽の大気に飛び込んだ探査機

2018年8月12日には、NASAの探査機パーカー・ソーラー・プローブが打ち上げられました。名前は、1950年代に太陽風の存在を予言した物理学者ユージン・パーカーにちなんだものです。NASAが存命の研究者の名前を探査機に付けたのは初めてで、パーカー本人も打ち上げを見届けました。

探査機は2021年4月28日、初めてコロナの中に入りました。2024年12月24日には太陽の表面から約610万キロメートルまで近づき、時速約69万キロメートルという、人類が作った物体で最も速いスピードを記録しています。

2026年9月4日には29回目の最接近を終え、ミッションは2029年まで延長されました。コロナの中の磁場や粒子をじかに測りながら、今も観測を続けています。

語られている主な説

コロナを温める仕組みには、大きく分けて2つの説があります。どちらも、太陽の表面でわき立つように動くガスのエネルギーが、磁場を通じて上空へ運ばれると考える点は同じです。違うのは、そのエネルギーが熱に変わる方法です。

波が熱を運ぶ「波動加熱説」

一つめは、磁力線を伝わる波がエネルギーを運び、コロナで熱に変わるという説です。主役とされるアルヴェーン波は、スウェーデンの物理学者ハンネス・アルヴェーンが1942年に予言した波です。張ったギターの弦をはじいたときのように、磁力線をゆらしながら伝わります。アルヴェーンは、1970年にノーベル物理学賞を受けています。

2025年10月には、イギリスの大学などの研究チームが、ハワイにある世界最大の太陽望遠鏡「ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡」で、コロナの中を磁力線をねじるように伝わる小さなアルヴェーン波を初めてとらえたと発表しました。チームは、この波がコロナの加熱に大きな役割を果たしている可能性があるとしています。

小さな爆発が無数に起きる「ナノフレア説」

二つめは、目立たないほど小さな爆発が、太陽のあちこちで絶えず起きているという説です。表面の動きで磁力線がねじれたり、からまったりして、それが一気につなぎ変わるときにエネルギーが放出されると考えられています。

この小さな爆発は「ナノフレア」と呼ばれ、1980年代の終わりにユージン・パーカーが提唱しました。一つひとつのエネルギーは、ふつうの太陽フレアの10億分の1ほどです。それでも数がとても多ければ、合わせてコロナを温められるという考えです。

2020年7月には、ESAとNASAの太陽探査機ソーラーオービターが撮影した最初の画像から、太陽のあちこちで起きている小さな爆発のような現象が見つかり、「キャンプファイヤー」と名付けられました。ただし、これがナノフレアと同じ仕組みで起きているのかは、まだ分かっていません。

今も残る謎

波動加熱説とナノフレア説は、どちらか一方だけが正しいとは限りません。両方が働いていて、太陽の場所によってどちらが強く効いているかが違う、という考えもあります。ただ、それぞれがどのくらいの割合で熱を生んでいるのかは、まだ分かっていません。

日本では、次の太陽観測衛星「SOLAR-C」の開発が、JAXAと国立天文台を中心に、アメリカやヨーロッパとの協力で進められています。2028年度の打ち上げを目指していて、紫外線で太陽の大気をくわしく観測し、2つの仕組みがどのくらいの割合で起きているのかを明らかにすることを目標の一つにしています。

コロナは、太陽から宇宙へ吹き出す「太陽風」の出発点でもあります。太陽風などが引き起こす「宇宙天気」の変化は、人工衛星や宇宙飛行士の安全にも関わるため、この謎の答えは私たちの暮らしにもつながっています。

まとめ

太陽の表面は約6000度なのに、外側のコロナは100万度を超えています。19世紀の皆既日食で見つかった謎の緑の光が、電子の多くを失った鉄から出ていたと分かってから、この「コロナ加熱問題」は太陽の研究の大きなテーマになってきました。

磁場がエネルギーを運んでいると考えられていますが、それを熱に変えるのが波なのか、小さな爆発なのか、答えはまだ出ていません。パーカー・ソーラー・プローブやひので、そしてこれからの観測衛星が、この身近な星の大きな謎に挑み続けています。

僕のひとりごと

僕がこのテーマで一番おもしろいと思ったのは、未知の元素だと思われていた「コロニウム」の正体が、ありふれた鉄だったという話です。答えは最初から目の前にあったのに、コロナが熱すぎたせいで見抜けなかったんですね。

毎日見上げている太陽に、まだこんなに大きな謎が残っていることにも驚きました。パーカーが自分の名前の付いた探査機の打ち上げを見届けたという話も、なんだか胸が熱くなります。2028年度の打ち上げを目指すSOLAR-Cが、どんな答えを見せてくれるのか楽しみです。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA/Aubrey Gemignani 2017年8月21日にアメリカ・オレゴン州マドラスで撮影された皆既日食の写真です。月に隠された太陽のまわりに、コロナが白く広がっています

この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。

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