木星の表面に浮かぶ、赤みがかった大きな楕円の模様。「大赤斑」と呼ばれるこの模様は、地球がまるごと入るほど大きな嵐です。少なくとも190年にわたって、木星の南半球で吹き続けているとみられています。
ところが、この嵐は1800年代の終わりから縮み続けていて、長さは当時の半分以下になりました。なぜ縮んでいるのか、このまま消えてしまうのか。この記事では、大赤斑について分かっていることと、語られている主な説を整理します。
概要
大赤斑は、木星の南半球にある巨大な渦です。まわりより気圧が高い「高気圧」の渦で、反時計回りに回っています。
大赤斑の北側と南側には、逆向きに吹く強いジェット気流があります。大赤斑はそのあいだにはさまれていて、望遠鏡で観測されるようになってから、ずっとほぼ同じ緯度にとどまっています。その大赤斑が小さくなり続け、形も横長の楕円から円に近づいてきましたが、理由はまだはっきりしていません。
確かな事実として分かっていること
地球より大きな嵐
2024年に発表された研究によると、今の大赤斑の長さは約1万4000キロメートルです。地球の直径を少し上回る大きさで、今も地球がまるごと入ります。
ハッブル宇宙望遠鏡の観測では、渦の外側にある風の速い帯で、雲が時速640キロメートルを超える速さで回っています。2009年から2020年までの観測をくらべると、この帯の平均の風の速さは最大で8%ほど上がっていましたが、その理由は分かっていません。
いつから見えているのか
1665年、イタリア出身の天文学者ジョヴァンニ・カッシーニは、今の大赤斑と同じ緯度に暗い楕円の模様を見つけました。この模様は「パーマネント・スポット(永続する斑点)」と呼ばれ、カッシーニたちは1713年まで観測を続けました。
ところがその後、120年近く、同じような模様の記録は途切れます。1831年になって、同じ緯度に楕円形の模様が再び記録されました。NASAによると、今の大赤斑が確かに観測されたのは、この1831年が最初で、1878年からは毎年欠かさず観測の記録が残っているといいます。
2024年6月、スペインの大学などの研究チームは、昔の記録に残る模様の大きさや動きをくわしく調べ、今の大赤斑がカッシーニの見た模様と同じものである可能性はとても低いと発表しました。カッシーニの模様は18世紀の中ごろから19世紀のあいだに消えたとみられ、今の大赤斑は少なくとも190年続いていることになります。
150年ほどで半分以下に
NASAとESAによると、1800年代の終わりごろの大赤斑は、長い方の差し渡しが約4万1000キロメートルもありました。
1979年にボイジャー1号と2号が木星のそばを通ったときには約2万3300キロメートル、2014年のハッブル宇宙望遠鏡の観測では約1万6500キロメートルまで小さくなりました。
2012年からは、アマチュア天文家の観測で、縮むペースが1年に1000キロメートル近くまで速まっていることが分かりました。
縮みながら背が高くなっているという報告
2018年、NASAゴダード宇宙飛行センターの研究者などのチームは、1878年からの記録やハッブルの観測をまとめた研究を発表しました。縮むにつれて内側の風が強まると予想されていましたが、そうはならず、渦が上へ伸びて背が高くなっているようだといいます。
同じ研究では、大赤斑の色が濃くなり、2014年からは濃いオレンジ色になっていることも報告されています。
ジュノーが測った深さ
2016年に木星に着いたNASAの探査機ジュノーは、2017年7月に初めて大赤斑の真上を通りました。雲の下から届くマイクロ波を調べると、大赤斑の根は、雲の上端から少なくとも約300キロメートルの深さまで続いていました。
2019年7月には、大赤斑の上を低く2回通り、渦が生み出すわずかな重力の違いを測りました。その結果、大赤斑は雲の上端から約500キロメートルまでの範囲に収まっていると見積もられています。横の大きさとくらべると、とても薄い渦なのです。
90日ごとに揺れている
2023年12月から2024年3月にかけて、ハッブル宇宙望遠鏡は大赤斑を約90日間続けて観測しました。すると大赤斑は、およそ90日の周期で、ふくらんだりしぼんだりしながら、流れる速さも速くなったり遅くなったりしていました。
NASAは、器に入ったゼリーが揺れるような動きだと説明しています。なぜこのように揺れるのかは、まだ分かっていません。
語られている主な説
小さな渦との関係が変わったという説
2014年、NASAのチームは、ごく小さな渦が大赤斑に流れ込んでいる様子をハッブルでとらえました。こうした渦が嵐の内部の動きやエネルギーを変え、縮むペースを速めているのではないかと考えました。
2024年7月には、アメリカのイェール大学の大学院生らのチームが、木星の大気をコンピューターで再現し、小さな嵐をぶつけた場合と、ぶつけなかった場合をくらべた研究を発表しました。
すると、小さな嵐を取り込んだ大赤斑は強まり、大きくなりました。チームは、取り込める小さな嵐が減ったことが、大赤斑が縮んでいる理由かもしれないと考えています。ただし、これは計算から導いた説で、さらにくわしい計算が必要だとしています。
風の帯に収まるまで縮むという説
2024年に大赤斑の揺れを報告したハッブルのチームは、今の大赤斑は、まわりの風の流れからみて、自分のいる緯度の帯からはみ出すほど大きいと説明しています。
大赤斑がその帯の内側まで縮めば、まわりの風にしっかりと支えられるようになります。チームは、大赤斑はこれからも縮み続けたあと、細長さの少ない形で大きさが安定するだろうと予想しています。ただし、これまでにハッブルがとらえた揺れは1周期分だけです。
雲が縮んでも渦は弱っていないという説
2019年の春には、大赤斑から赤い「かけら」がはがれ落ちるように見える様子が、プロやアマチュアの天文家に撮影されました。大赤斑が消えかけているのではないかという見方も出ました。
これに対して、カリフォルニア大学バークレー校のチームは同じ年の11月、小さな雲の渦がぶつかったときに起きる自然な現象だと発表しました。見えている雲の大きさが、その下にある渦の本当の大きさを表しているとは限らず、渦そのものが小さくなったり弱ったりした証拠はないといいます。
今も残る謎
一番大きな謎は、縮んだ先に何が待っているかです。2018年のNASAのチームは、少し縮んだところで安定するのか、すっかり崩れてしまうのかは分からないとしています。スペインのチームも、カッシーニの見た模様のように消えてしまうのか、安定して長く続くのかを、これからの計算で確かめたいとしています。
高さについても、見方が分かれています。2018年のNASAのチームは背が高くなっているようだと報告しましたが、2020年にフランスの研究チームは、実験と計算から、大赤斑の厚さは横に縮んでもほとんど変わっていないと推定しました。
大赤斑がなぜ赤いのかも、はっきりしていません。2014年、NASAジェット推進研究所(JPL)の研究者は、土星探査機カッシーニが2000年12月に木星のそばを通ったときのデータと実験から、太陽の紫外線を浴びたアンモニアとアセチレンから生まれる物質が、一番上の雲を赤く染めているという説を発表しました。ただし、赤い色の正体はまだ決着していません。
どうやって生まれたのかも謎の一つです。スペインのチームはスーパーコンピューターを使った計算で、風の乱れから生まれた細長い渦が、縮みながらまとまって今の大赤斑になったという考えを示しています。
まとめ
大赤斑は、木星の南半球で少なくとも190年吹き続けている、地球より大きな高気圧の渦です。1800年代の終わりに約4万キロメートルあった長さは、今では約1万4000キロメートルになり、形も円に近づいてきました。
小さな嵐を取り込めなくなったのか、風の帯に収まる大きさへ落ち着こうとしているのか。縮む理由も、この先どうなるのかも、まだ分かっていません。
僕のひとりごと
地球がまるごと入る嵐が、少なくとも190年も吹き続けていると聞くだけで、そのスケールにくらくらします。しかも、縮みながら背が高くなっているかもしれなかったり、90日ごとにゼリーのように揺れていたりと、知れば知るほど生き物のように思えてきました。小さな嵐を取り込んで大きさを保っているという説には、なんだか親しみがわきます。大赤斑が落ち着くのか消えてしまうのか、その答えをいつか見届けられたらうれしいです。
参考情報
- NASA「NASA’s Hubble Shows Jupiter’s Great Red Spot is Smaller than Ever Measured」(2014年5月15日)
- NASA JPL「Jupiter’s Great Red Spot is Smaller Than Ever Measured」(2014年5月15日)
- ESA/Hubble「The shrinking of Jupiter’s Great Red Spot」(2014年5月15日)
- ESA/Hubble「Jupiter and its shrunken Great Red Spot」(heic1410a)
- NASA「Jupiter’s Great Red Spot Getting Taller as it Shrinks, NASA Team Finds」(2018年3月13日)
- Sci.News「Great Red Spot Getting Taller as It Shrinks, Planetary Scientists Say」(2018年3月15日)
- NASA「Hubble Shows Winds in Jupiter’s Great Red Spot Are Speeding Up」(2021年9月27日)
- ESA/Hubble「Hubble Shows Winds in Jupiter’s Great Red Spot Are Speeding Up」(2021年9月27日)
- Mission Juno(サウスウエスト研究所)「NASA’s Juno Probes the Depths of Jupiter’s Great Red Spot」(2017年12月)
- NASA JPL「NASA’s Juno: Science Results Offer First 3D View of Jupiter Atmosphere」(2021年10月28日)
- NASA JPL「Measuring the Gravity of Jupiter’s Great Red Spot」(2021年10月28日)
- NASA「NASA’s Hubble Watches Jupiter’s Great Red Spot Behave Like a Stress Ball」(2024年10月9日)
- ESA/Hubble「Hubble takes new look at Jupiter’s Great Red Spot」(2024年10月9日)
- Sky & Telescope「Jupiter’s Great Red Spot Shimmies to a Beat」(2024年10月10日)
- AGU「Jupiter’s Great Red Spot is not the same one Cassini observed in 1600s」(2024年6月17日)
- カタルーニャ工科大学(UPC)「Researchers from the UPC, the BSC-CNS and the UPV/EHU establish the age and origin of Jupiter’s Great Red Spot」(2024年7月8日)
- ブルーバックス(講談社)「6月 8日 イタリアの天文学者カッシーニが生まれる(1625年)」(2018年6月8日)
- ギズモード・ジャパン「木星の渦『大赤斑』。昔と今では違うものなの?」(2024年6月25日)
- Yale News「A new explanation for Jupiter’s great, shrinking ‘Spot’」(2024年7月18日)
- Forbes JAPAN「縮小する『木星の大赤斑』、小型の嵐の減少が原因か 最新研究で新説」(2024年8月3日)
- Newswise(アメリカ物理学会の発表)「Reports of Jupiter’s Great Red Spot Demise Greatly Exaggerated」(2019年11月25日)
- APS News「Jupiter’s Great Red Spot Will Keep on Spinning」(2020年1月)
- CNRS「Jupiter’s Great Red Spot shrinking in size but not in thickness」(2020年3月16日)
- Lemasquerier ほか「Remote determination of the shape of Jupiter’s vortices from laboratory experiments」(arXiv、Nature Physics、2020年)
- NASA JPL「Jupiter’s Red Spot is Likely a Sunburn, Not a Blush」(2014年11月11日)
- Universe Today「Jupiter’s Great Red Spot Gets Its Color From Sunlight, Study Suggests」
- 北アリゾナ大学(Space.comの記事の転載)「What Makes Jupiter’s Great Spot Red? It’s Still a Mystery」(2018年2月5日)
アイキャッチ画像:NASA, ESA, and A. Simon (Goddard Space Flight Center)、Acknowledgement: C. Go(CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ 、ESA/Hubble経由) 2014年4月21日にハッブル宇宙望遠鏡が撮影した木星です。右下のオレンジ色の楕円が大赤斑です
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この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。










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