宇宙人の証拠はなし、でも正体は不明 NASAのUFO報告書とは

宇宙人の証拠はなし、でも正体は不明 NASAのUFO報告書とは UFO・UAP
NASA/Aubrey Gemignani 2023年9月14日、ワシントンのNASA本部で開かれた、UAP独立研究チームの報告書についての記者会見の様子です

アメリカ航空宇宙局(NASA)が、UFOを科学の目で調べる。2022年6月、NASAはそのための研究チームを作ると発表し、大きな関心を集めました。

研究チームの報告書は2023年9月14日に公表され、日本でも報じられました。この記事では、報告書の中身とその後を、確かな事実と説を分けて整理します。

概要

研究チームの名前は、日本語にすると「UAP独立研究チーム」です。UAPは、アメリカ政府がUFOの代わりに使っている言葉で、「未確認異常現象」と訳されます。

チームは、NASAの外から集められた16人の専門家でできていました。率いたのは、天体物理学者で、アメリカの科学財団「サイモンズ財団」の会長を務めるデイビッド・スパーゲル氏です。元宇宙飛行士のスコット・ケリー氏や、科学ジャーナリスト、航空の安全の専門家なども加わりました。

チームの役目は、過去のUFO事件の正体を見きわめることではなく、これからUAPを科学的に調べるために、どんなデータをどう集めて分析すればよいかを示すことでした。

確かな事実として分かっていること

10万ドル以下の小さな研究

NASAが研究を発表したのは2022年6月9日で、費用は10万ドル以下とされました。16人のメンバーは10月に発表され、調査は10月24日から約9か月の予定で始まりました。メンバーに機密情報を扱う資格は求められず、チームは機密ではないデータだけを使いました。

嫌がらせを受けたメンバーたち

2023年5月31日には、ワシントンのNASA本部で約4時間の公開会合が開かれ、その様子は中継されました。会合では、国防総省の全領域異常対策室(AARO)の所長が、集まったUAPの報告は800件を超えたと説明しました。そのうち本当に正体が分からないかもしれないものは、おおよそ2から5パーセントだという見方も示しています。

NASAによると、メンバーは活動を始めてから、ネット上で中傷や嫌がらせを受けていました。報告書にも、嫌がらせのメールが届いたり、SNSでからかわれたりしたメンバーがいたと書かれています。

報告書の結論はデータ不足

2023年9月14日に公表された報告書の一番大きな結論は、UAPの正体について科学的な結論を出せるだけの、質の高いデータがそろっていないということです。

UAPの多くは、そのために作られたわけではない軍のセンサーなどに、たまたま記録されたものです。報告書は、センサーの調整(較正)が不十分なこと、複数の方法で測っていないこと、いつどこでどう記録したかという情報がないこと、比べるための基準のデータがないことを問題に挙げました。

宇宙人については、これまで専門家の審査を受けた科学論文の中に、UAPが地球の外から来たことを示す決定的な証拠はないとしています。記者会見でNASAのビル・ネルソン長官は、チームは地球外から来た証拠を見つけなかったと説明する一方、UAPが何なのかは分からないという趣旨も述べました。

データがそろえば説明がつく例として、報告書は海軍の戦闘機が撮影した映像「GOFAST」を取り上げています。海面すれすれを猛スピードで飛んでいるように見えた物体は、画面の数字から計算すると、風に流されていただけかもしれないといいます。

詳しくはこちら:米国防総省が公開した3本のUFO映像と秘密計画AATIPとは

報告書の主な提言

報告書は、政府全体の調査を率いるAAROの取り組みの中で、NASAも得意分野を生かして目立つ役割を果たすべきだとしています。

まず、NASAの地球観測衛星です。小さなUAPそのものを写すほどの細かさはありませんが、目撃があった時と場所の天気や海、大気の様子を調べれば、特定の環境とUAPの関係を確かめられるとしています。

次に、一般の人の力です。報告書は、たくさんの人がスマートフォンで撮った画像やセンサーの情報を集めるアプリの開発を検討するよう求めました。いくつもの場所から同時に撮影できれば、物体の位置や速さ、大きさを割り出せるからです。

パイロットの報告にも目を向けました。NASAは連邦航空局(FAA)のために、パイロットなどが名前を伏せて安全上の出来事を報告できる「航空安全報告システム(ASRS)」を運営しています。報告書によると年に約10万件の報告が寄せられていて、これをUAPにも生かせば重要なデータベースになるとしています。

分析にはAI(人工知能)や機械学習が欠かせないものの、今は新しい分析の方法を作るより、良いデータを集めるほうが先だとしています。また、NASAがUAPの研究にかかわること自体が、報告をためらわせる偏見を減らすことにつながると期待しています。

名前を伏せられたUAP研究ディレクター

NASAは報告書の公表に合わせて、UAPの研究をまとめる「UAP研究ディレクター」という役職を新しく設けました。記者会見の時点では、嫌がらせを心配して名前を明かしませんでしたが、その日のうちに、それまで国防総省との連絡役を務めてきたNASAの職員を任命したと公表しています。

語られている主な説

宇宙人の乗り物だという説

UFOといえば、宇宙人を思い浮かべる人も多いでしょう。報告書は、今あるUAPの報告が地球の外から来たと結論づける理由は、今のところないとしています。地球外の生命は、ほかのすべての可能性を取り除いたあとに最後に考えるべき仮説だという立場です。

ただし、宇宙人の可能性を否定したわけでもありません。もし地球の外から来たのなら太陽系を通ってきたはずだとして、太陽系の中で変わった動きをする物体を探すことも提案しています。ネルソン長官も、宇宙のどこかに生命がいると個人的には考えていると話しました。

身近なものの見まちがいだという見方

スパーゲル氏は記者会見で、ほとんどの出来事は、気球や飛行機といったふつうのものだと分かっていくだろうという趣旨を話しています。

公開会合では、ケリー氏が軍のパイロットだったころの体験を紹介しました。一緒に飛んでいた仲間が、UFOとすれ違ったと思い込んだことがあったそうです。引き返して確かめると、それはアニメのキャラクター、バート・シンプソンの形をした風船でした。

機密のデータを見ないままの結論だという指摘

研究チームは機密のデータを見ておらず、軍の目撃情報の一部しか検討できなかったという指摘もあります。報告書自身も、軍のデータの多くが機密になっていることが、UAPをめぐる謎や陰謀の雰囲気を強め、科学の調査のさまたげになっていると認めています。機密になる理由の多くは、写っているものではなく、アメリカの観測技術の性能を敵対する国に知られないためだといいます。

今も残る謎

報告書は、科学が謎を解いてきた例として、パルサーの発見を挙げています。1967年、イギリスのケンブリッジ大学で大学院生だったジョスリン・ベル・バーネル氏は、約1.3秒ごとに届く、とても規則正しい電波を見つけました。「LGM(小さな緑の人)」というあだ名まで付いたこの電波は、のちに高速で回転する中性子星から来ていると分かりました。

UAPも、質の高いデータが集まれば、同じように正体が分かっていくのかもしれません。ただ、報告書の提言がどこまで実行されたのかは、はっきりしません。2026年10月に確かめたところ、NASAのUAPのページには、2023年の報告書のあとの新しい調査の成果は載っていませんでした。

わずかに残る正体不明のUAPは、未知の自然現象なのか、ほかの国の技術なのか、それとも別の何かなのか。答えはまだ出ていません。

まとめ

NASAのUAP独立研究チームは、2023年9月14日に報告書を公表しました。UAPが地球の外から来たという証拠はないとする一方、正体について科学的な結論を出すには、質の高いデータが足りないとしています。

報告書は、衛星やスマートフォン、パイロットの報告の仕組みを生かしてデータを集めることなどを提言しました。その提言がどう生かされるのかは、まだ見えていません。

僕のひとりごと

僕がこの報告書で一番おもしろいと思ったのは、UFOの正体を言い当てるより先に、データの集め方を考えたところです。宇宙人かどうかを言い合う前に、まずはきちんと測ろうという姿勢に、NASAらしさを感じました。

それでも、研究に加わっただけで嫌がらせを受けたメンバーがいたという話には、少し悲しくなりました。宇宙人のようなあだ名を付けられたパルサーの電波が正体を明かしたように、UAPの正体もいつかデータが教えてくれる日が来ればいいなと思います。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA/Aubrey Gemignani 2023年9月14日、ワシントンのNASA本部で開かれた、UAP独立研究チームの報告書についての記者会見の様子です

あわせて読みたい

日本近海のUAP映像2本とは、国防総省の公開資料をめぐる見方
アメリカ国防総省が公開したUAPの資料に含まれる、日本の近くで撮られた2本の映像を取り上げます。フットボール型の物体と3つの明暗の部分をめぐって、正体の分からない物体とみる見方と、気球や無人機、赤外線の見え方とみる見方を紹介し、確認できてい...
生命はどこで生まれたか、高井研氏が語る深海熱水噴出孔とLUCA
JAMSTECの高井研氏が、生命は深海熱水噴出孔で生まれたという見方や、全生物の共通祖先LUCAより前にいたかもしれない遺伝子を持たない代謝生命、高温で増える微生物、土星の衛星エンケラドスでの生命探査について語った動画の内容を紹介します。

この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました