探査機サイキとは?金属の小惑星プシケへ向かうNASAの6年の旅

探査機サイキとは?金属の小惑星プシケへ向かうNASAの6年の旅 宇宙ニュース
NASA/JPL-Caltech 探査機サイキと同じ型の電気推進エンジン「ホールスラスター」です(2021年公開)。左はJPLで撮影された動いているもので、キセノンのプラズマが青く光っています。右は止まっている同じような推進器です

火星と木星のあいだの小惑星帯に、ほかの多くの小惑星とは少し違う天体があります。岩石や氷ではなく、金属を多く含むとみられる小惑星「プシケ」です。

そのプシケを目指して、NASAの探査機「サイキ」が宇宙を進んでいます。2026年5月には火星のそばを通って加速し、2029年の到着に向けて旅を続けています。この記事では、サイキのこれまでの歩みと、プシケをめぐる謎を紹介します。

概要

サイキは、NASAが小惑星プシケを調べるために打ち上げた探査機です。2017年に、比較的少ない費用で太陽系を探査するNASAの「ディスカバリー計画」のミッションに選ばれました。アメリカのアリゾナ州立大学が計画を率い、NASAのジェット推進研究所(JPL)が運用などを担っています。

探査機と小惑星は、英語ではどちらも「Psyche」です。日本では探査機を「サイキ」、小惑星を「プシケ」と呼び分けることが多く、この記事もそれに合わせます。

NASAによると、表面に金属を多く含む小惑星を探査するのは、サイキが初めてです。地球の中心にある核は深すぎて直接調べることができませんが、プシケがもし惑星の核の生き残りなら、その姿を外から調べられるかもしれないと期待されています。

確かな事実として分かっていること

小惑星プシケとは

プシケは、1852年にイタリアの天文学者が見つけた、16番目の小惑星です。名前は、ギリシャ神話で愛の神エロスと結ばれた女性プシケにちなんでいます。

形はジャガイモのようにいびつで、最も長いところで約280キロメートルあります。小惑星帯の外側寄りを約5年かけて回っていて、太陽からの距離は地球の約3倍です。自転は速く、約4時間で1回転します。

NASAによると、プシケは体積の30%から60%が金属でできていると見積もられています。かつては、ほとんどが金属のかたまりだと考えられていましたが、その後の観測から、岩石と金属が混ざった天体とみられるようになりました。

プシケの金属をお金に換算すると1000京ドルにもなるという試算が報じられ、話題になったこともあります。ただし、サイキの目的は資源の採掘ではなく、試料を地球に持ち帰る計画もありません。

1年遅れの打ち上げ

サイキは当初、2022年に打ち上げられる予定でした。ところが、探査機を動かす飛行ソフトウェアと試験用の装置の納入が遅れ、必要な試験が間に合わなかったため、2022年の打ち上げは見送られました。

NASAが設けた独立の審査委員会は2022年11月、新型コロナウイルスの流行による働き方の変化や人手の不足、管理の問題などが遅れにつながったと指摘しました。チームは対策を進め、委員会は2023年、その取り組みを高く評価しました。

そして2023年10月13日(日本時間では同じ日の午後11時19分)、サイキはアメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センターから、スペースXの大型ロケット「ファルコンヘビー」で打ち上げられました。

青く光るエンジンで進む

サイキは、太陽電池で作った電気を使ってキセノンというガスを加速し、噴き出して進みます。エンジンは4基の「ホールスラスター」で、動いているときには、キセノンのプラズマが青く光ります。太陽電池パネルを広げた探査機は、テニスコートほどの大きさです。

押す力はとても弱いものの、長い時間噴き続けることで、少しずつ速さを増やしていきます。JPLによると、ホールスラスターが月の軌道より遠くで使われるのは、サイキが初めてです。

2025年4月初めには、キセノンを送る配管の圧力が下がり、エンジンを止めて原因を調べることになりました。バルブの中の部品がキセノンの流れをふさいでいたことが分かり、チームは同じつくりの予備の配管に切り替えました。NASAによると、サイキは6月16日にエンジンの運転を完全に再開し、到着の予定は変わっていません。

レーザーで届いた猫の動画

サイキには、新しい通信技術の実験装置「DSOC(深宇宙光通信)」も積まれていました。電波の代わりにレーザー光を使い、今の深宇宙の電波の通信より10倍から100倍速くデータを送ることを目指した実験です。

2023年12月11日には、地球と月の距離の約80倍にあたる約3100万キロメートル先から、15秒の動画が送られてきました。打ち上げ前に装置に入れておいたもので、オレンジ色のトラ猫がレーザーポインターの光を追いかける映像です。信号は101秒で地球に届き、送る速さは最大で毎秒267メガビットに達しました。NASAがレーザーで深宇宙から動画を送ったのは、これが初めてです。

DSOCは、地球から3億キロメートル以上離れた場所からのデータの受信にも成功し、2025年9月2日に実験を終えました。JPLは、すべての技術的な目標を上回ったとしています。

火星のそばを通って加速

2026年5月15日、サイキは火星の表面から約4600キロメートルのところを通過しました。火星の重力を借りて、燃料を使わずに速さを時速約1600キロメートル上げ、太陽のまわりを回る軌道の傾きも約1度変えました。

このとき、サイキは観測装置を動かして、何千枚もの火星の画像を撮影しました。南極の氷の地域や、直径約470キロメートルのホイヘンス・クレーターなどの画像は、2029年の本番に向けた練習と、カメラの調整に役立てられています。

語られている主な説

プシケがなぜ金属を多く含むのかについては、いくつかの説があります。有力とされてきたのは、惑星になりかけた天体の「核」の生き残りだという説です。

太陽系ができたばかりのころ、熱くなった小さな天体の中では、岩石が溶け、重い鉄などの金属が中心に沈んで核ができたと考えられています。その後の激しい衝突で外側の岩石がはぎ取られ、金属の核がむき出しになったのがプシケだ、という考え方です。

一方で、プシケは核ではなく、最初から金属の多い材料が集まってできた天体かもしれないという説もあります。また2021年には、アリゾナ大学の研究チームが、プシケは金属が8割ほどで、核がそのまま残った天体ではなく、すき間の多い「がれきの山」のような天体かもしれないと発表しました。

2024年には、アメリカのサウスウエスト研究所などのチームが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で、プシケの表面に水酸基(酸素と水素が結びついたもの)を含む物質を見つけたと発表しました。ほかの小惑星が衝突で持ち込んだ可能性もありますが、もともとプシケにあったものなら、プシケは核ではなく、太陽から遠い寒い場所で生まれて移ってきた天体かもしれないとされています。

今も残る謎

プシケがどのくらい金属を含んでいるのかは、研究によって見積もりが大きく分かれています。NASAは、プシケが実際にどんな姿をしているのかは、探査機が近くで観測するまで分からないとしています。

大きな手がかりになりそうなのが磁場です。サイキの磁力計が、プシケに昔の磁場の名残を見つければ、かつて溶けた金属の核があった強い証拠になると考えられています。表面の水酸基がどこから来たのか、プシケがどこで生まれたのかも、まだ分かっていません。

これから期待されていること

NASAによると、サイキは2029年8月にプシケを回る軌道に入り、少なくとも26か月かけて観測する予定です。高度約709キロメートルの軌道から始めて、高さの違う軌道を移りながら、最も低いときは高度約75キロメートルまで近づきます。

カメラで表面の地図を作り、ガンマ線・中性子分光計で表面の元素を調べ、通信の電波を使って重力や質量を測ります。こうした観測を組み合わせて、プシケの正体に迫ります。

まとめ

サイキは、金属を多く含むとみられる小惑星プシケを調べるため、2023年10月に打ち上げられたNASAの探査機です。打ち上げの延期や推進系のトラブルを乗り越え、レーザー通信の実験を成功させ、2026年5月には火星のそばを通って加速しました。

プシケが惑星の核の生き残りなのか、それとも別の成り立ちの天体なのかは、まだ分かっていません。2029年8月から始まる観測で、その答えにどこまで近づけるのか注目です。

僕のひとりごと

僕が一番ワクワクしたのは、地球では深すぎて見られない惑星の核を、もしかしたら外からのぞけるかもしれない、という話です。でも、調べるほど「本当に核なのか」という疑問も出てきているところが、いかにも宇宙の謎らしくておもしろいと思いました。

猫の動画がレーザーに乗って3100万キロメートルも旅してきたという話には、思わず笑ってしまいました。2029年にサイキがどんなプシケの姿を見せてくれるのか、今から楽しみです。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA/JPL-Caltech 探査機サイキと同じ型の電気推進エンジン「ホールスラスター」です(2021年公開)。左はJPLで撮影された動いているもので、キセノンのプラズマが青く光っています。右は止まっている同じような推進器です

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