太陽に一番近い惑星、水星。その水星を回る軌道に、2026年11月21日、日本とヨーロッパの探査機が入ろうとしています。2018年10月に打ち上げられた水星探査計画「ベピコロンボ」です。
8年近い旅のあいだには、惑星の重力を借りた9回のフライバイや、エンジンの不具合による1年の遅れもありました。この記事では、到着を目前にしたベピコロンボのこれまでの歩みと、これからの予定を紹介します。
概要
ベピコロンボは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で進める水星探査計画です。ESAの水星表面探査機「MPO」と、JAXAの水星磁気圏探査機「みお」の2機が、重なった状態で水星へ向かっています。
MPOは水星の地形や表面の成分、内部のようすを調べます。「みお」は、水星をとりまく磁場やプラズマ、うすいナトリウムの大気などを観測します。水星の近くまでは、イオンエンジンと大きな太陽電池パネルを備えたESAの推進モジュール「MTM」が、2機を運んできました。
計画の名前は、「ベピ」の愛称で呼ばれたイタリアの数学者、コロンボ博士にちなんでいます。博士は、NASAの探査機マリナー10号が金星の重力を使って水星に何度も近づける道すじを示した人物です。
「みお」は、2018年に公募で選ばれた愛称です。JAXAによると、船の通り道や、船が通ったあとに残る筋を表す言葉で、太陽風の流れの中を進んで観測する探査機の姿を、流れの中を進む船に重ねたことなどが選ばれた理由です。日本で水星探査の検討が始まったのは1997年で、構想から打ち上げまでに約21年かかりました。
確かな事実として分かっていること
近いのに行きにくい水星
水星は太陽に一番近い惑星なので、そこへ向かう探査機は、太陽の重力に引かれて速くなってしまいます。水星を回る軌道に入るには大きなブレーキが必要で、ESAは、冥王星へ行くよりも多くのエネルギーがいると説明しています。
熱も大きな壁です。水星の昼の表面は約430度にもなります。「みお」は、光を反射する鏡で機体を覆うなどして、この熱に耐えられるようにつくられました。
ベピコロンボより前に水星を訪れた探査機は、NASAの2機だけです。1974年から1975年にかけてマリナー10号が3回近くを通り過ぎ、2011年から2015年にはメッセンジャーが初めて水星を回りました。MPOと「みお」は、史上2機目と3機目の水星周回機になる予定です。
9回のフライバイで少しずつブレーキ
ベピコロンボは、日本時間2018年10月20日、南米のフランス領ギアナからアリアン5ロケットで打ち上げられました。積める燃料にかぎりがあるため、イオンエンジンの力に加えて、惑星のそばを通るときの重力も使い、少しずつ速さや向きを変えてきました。
2020年4月に地球、その後に金星で2回、2021年10月から2025年1月までに水星で6回と、合わせて9回のフライバイを行いました。これは惑星探査機として史上最多の回数です。
エンジンの不具合で到着が1年遅れに
旅の途中では、思わぬトラブルもありました。2024年4月、MTMがイオンエンジンに十分な電力を送れなくなったのです。調べたところ、太陽電池パネルと、電力を配る装置のあいだに、予期しない電流が流れていたことが分かりました。
エンジンを計画より弱い力で動かすしかなくなり、2025年12月に予定していた水星への到着には間に合わなくなりました。そこでESAのチームは新しい道すじを考え、到着は約1年遅い2026年11月に変更されました。2024年9月の4回目の水星フライバイでは、予定より低い高度165キロメートルまで近づき、その後に必要なエンジンの力を節約しました。
フライバイで見えてきた水星
水星のそばを通るたびに、2機は使える観測装置を動かして、水星のまわりを調べてきました。「みお」の電磁波の観測装置は、2021年と2022年のフライバイで、水星の朝側のかぎられた場所に「コーラス波動」という電磁波が発生しているのを初めてとらえました。
研究チームは2023年、この電磁波が水星のX線オーロラのもとになっていることを示したと発表しました。2025年12月には、6回のフライバイのデータを地球の観測衛星GEOTAILの長年のデータとくらべ、水星のコーラス波動も地球のものと同じように、小鳥のさえずりのように周波数をすばやく上げ下げすると発表しています。
2025年1月8日の6回目、最後の水星フライバイでは、水星の表面から約295キロメートルの上空を通過しました。北極付近では、まわりの縁にさえぎられて底に日が当たらないクレーターが撮影されました。こうした場所は太陽系で最も冷たい場所の一つで、氷があると考えられています。
推進モジュールとのお別れ
2026年9月3日、ベピコロンボは、8年近く2機を運んできたMTMを切り離しました。地球から2億キロメートル以上離れた場所での作業で、ESAの管制室は2時間近く待って、成功の知らせを受け取りました。
9月15日には、MPOの観測装置がそろって動かされ、良い状態だと確認されました。レーザー高度計は約21.5時間で70万回を超えるレーザーを放ち、MTMにふさがれていた赤外線の観測装置の「窓」も、打ち上げ以来初めて開かれました。
これから期待されていること
ESAとJAXAによると、2機は重なったまま、2026年11月21日に水星を回る軌道に入る予定です。12月9日から10日にかけて「みお」が切り離され、細長い楕円の軌道で水星を回り始めます。MPOは、その後少しずつ高度を下げて、水星に近い軌道に移ります。
本格的な観測は2027年4月に始まる予定です。観測期間は1年間で、さらに1年延長できる可能性もあるとされています。
ベピコロンボの大きな特徴は、2機が同時に水星を回って観測することです。JAXAによると、2つの場所で同時に磁場を測ることで、太陽風による乱れと水星そのものが持つ磁場を切り分け、水星の内部のつくりに迫ることを目指しています。
水星には、まだ答えの出ていない謎があります。水星は、鉄などでできた中心核が惑星の大きさのわりにとても大きいことが分かっていますが、なぜそうなったのかはまだ分かっていません。磁場の強さは地球の約100分の1しかなく、小さな惑星がどのように磁場を保っているのかも、調べたいテーマの一つです。
北極や南極のクレーターにあるとみられる氷も、ベピコロンボが詳しく調べる予定です。
今も残る課題
水星を回る軌道に入るまでは、まだ気が抜けません。MTMを切り離した今は、MPOのエンジンで軌道を細かく整えながら水星に近づいています。
軌道に入ったあとも、2機を切り離して、それぞれ別の軌道へ移すという難しい作業が続きます。「みお」はそれまで、「MOSIF」という日よけに強い太陽の光から守られながら、MPOから電力を受けて出番を待ちます。
また、これまでの観測は、水星のそばを短い時間で通り過ぎるあいだに行ったものでした。中心核や氷の謎にどこまで迫れるかは、2027年から始まる本格的な観測にかかっています。
まとめ
ベピコロンボは、2018年10月に打ち上げられた日本とヨーロッパの水星探査計画です。9回のフライバイと、エンジンの不具合による1年の遅れを乗り越え、2026年9月には推進モジュールを切り離して、到着に向けた最後の段階に入りました。
11月21日に水星を回る軌道に入れば、MPOと「みお」は史上2機目と3機目の水星周回機になります。2027年から始まる2機そろっての観測で、謎の多い水星の素顔がどこまで見えてくるのか注目です。
僕のひとりごと
僕が一番おもしろいと思ったのは、太陽に一番近い水星へ行くのに、ブレーキをかけるために8年近くもかかるという話です。近いのに遠いという水星ならではの難しさを、9回のフライバイという数字が物語っている気がします。
「みお」という名前に、流れの中を進む船のイメージが重ねられているのもすてきです。水星のまわりで、地球と同じ小鳥のさえずりのような電磁波が見つかったという話にもワクワクしました。11月21日の軌道投入が無事に成功するよう、地球から応援したいと思います。
参考情報
- ESA「BepiColombo factsheet」
- ESA「Latest updates: BepiColombo’s arrival at Mercury」(2026年10月6日更新)
- ESA「BepiColombo begins Mercury arrival with MTM separation success」(2026年9月7日)
- ESA「Media briefing: BepiColombo’s next milestone towards Mercury」(2026年8月)
- ESA「Glitch on BepiColombo: work ongoing to restore spacecraft to full thrust」(2024年5月15日)
- ESA「Fourth Mercury flyby begins BepiColombo’s new trajectory」(2024年9月2日)
- ESA「Top three images from BepiColombo’s sixth Mercury flyby」(2025年1月9日)
- ESA「Mercury Magnetospheric Orbiter (Mio)」
- ESA「Top five Mercury mysteries that BepiColombo will solve」
- ESA「Mercury’s shadowy north pole revealed by M-CAM 1」(画像、2025年1月)
- JAXA「国際水星探査計画「BepiColombo」/水星磁気圏探査機「みお」(MMO)」
- JAXA 宇宙科学研究所「ミッション – 水星磁気圏探査機「みお」」
- JAXA「水星磁気圏探査機MMOの愛称決定について」(2018年6月8日)
- JAXA「水星磁気圏探査機「みお」(MMO)の打上げ結果について」(2018年10月20日)
- JAXA 宇宙科学研究所「国際水星探査計画「ベピコロンボ(BepiColombo)」の水星到着時期の変更」(2024年9月2日)
- DLR「Cruise Complete, Mercury Ahead: A New Chapter for MERTIS and BELA onboard BepiColombo」(2026年9月23日)
- NASA「45 Years Ago: Mariner 10 First to Explore Mercury」(2019年3月29日)
- ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所「MESSENGER Provides New Look at Mercury’s Landscape, Metallic Core, and Polar Shadows」(2012年3月21日)
- 京都大学「水星の電子加速とオーロラの源を解く局所的なコーラス波動を発見」(2023年9月15日)
- 金沢大学・東北大学・京都大学「水星の電子加速とオーロラの源を解く局所的なコーラス波動を発見!」(2023年9月13日)
- 金沢大学・東北大学「惑星磁気圏におけるコーラス放射の共通性を実証!」(2025年12月17日)
- JST サイエンスポータル「日本初の水星探査機、欧州機と一緒に打ち上げへ 構想21年、謎解明目指し7年の長旅」(2018年10月18日)
- Forbes JAPAN「史上2機目の「水星周回軌道」を目指し、日欧探査機ベピコロンボが最終工程へ」(2026年9月4日)
- マイナビニュース TECH+「日欧の水星探査機「ベピコロンボ」が水星スイングバイ、エンジン不調の影響は?」(2024年9月17日)
- マイナビニュース TECH+「金大など、水星のフライバイ観測で局所的に発生するコーラス波動を発見」(2023年9月20日)
- マイナビニュース TECH+「金大など、水星と地球のコーラス放射の共通性を探査機「みお」で確認」(2025年12月19日)
- アストロアーツ「探査機「ベピコロンボ」が5回目の水星スイングバイを完了」(2024年12月)
- Sci.News「BepiColombo Begins Final Approach to Mercury」(2026年9月6日)
- Popular Science「Mercury stuns in incredibly detailed new images」(2025年1月9日)
- Spaceflight Now「Messenger mission ends with plunge into Mercury」(2015年4月30日)
- 登竜門(JDN)「【結果速報】水星探査機の愛称が「みお」に決定 今年10月に宇宙へ」(2018年6月8日)
アイキャッチ画像:ESA/BepiColombo/MTM(CC BY-SA 3.0 IGO https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/igo/ 、ESA経由) 2025年1月8日、ベピコロンボが6回目の水星フライバイで撮影した水星の北極付近です。右側に写っているのは探査機の太陽電池パネルです
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この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。












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