1991年10月15日、アメリカ・ユタ州で、宇宙からやってきた1個の粒子がとらえられました。そのエネルギーはあまりにも大きく、この粒子はやがて「オーマイゴッド粒子」と呼ばれるようになります。
それから30年以上たった今も、これを上回るエネルギーの宇宙線は見つかっておらず、どこで生まれたのかも分かっていません。この記事では、オーマイゴッド粒子と超高エネルギー宇宙線の謎について、確かな事実と語られている説を分けて整理します。
概要
宇宙線とは、宇宙から地球に絶えず降り注いでいる、高いエネルギーを持った粒子のことです。1912年に気球を使った観測で見つかり、100年以上研究が続けられています。
宇宙線の中には、ごくまれに、とてつもなく大きなエネルギーを持つものがあります。10の20乗電子ボルト(100エクサ電子ボルト)を超えるような宇宙線のエネルギーは、地上最大の粒子加速器で得られるエネルギーの1000万倍以上です。
オーマイゴッド粒子は、これまでに観測された中で最もエネルギーの高い宇宙線です。
確かな事実として分かっていること
1991年のオーマイゴッド粒子
オーマイゴッド粒子をとらえたのは、ユタ大学の観測装置「フライズアイ」です。フライズアイは、ユタ州にあるアメリカ陸軍の広大な試験場の中に置かれていました。
とても高いエネルギーの宇宙線が大気にぶつかると、たくさんの粒子が次々に生まれ、「空気シャワー」と呼ばれる粒子の群れになって地上に降ってきます。研究者たちは、フライズアイがとらえた空気シャワーの記録から、元の粒子のエネルギーを逆算しました。
その値は約320エクサ電子ボルトで、身近な単位に直すと約51ジュールです。投げられた野球のボールが持つ運動エネルギーに近い大きさで、目に見えない粒子1個がそれだけのエネルギーを持っていたのです。その驚くべきエネルギーから、「オーマイゴッド粒子」と呼ばれるようになりました。
めったにやってこない宇宙線
10の20乗電子ボルトを超える宇宙線が地球に届くのは、1平方キロメートルあたり100年に1個ほどとされています。そのため観測には広い土地が必要で、アルゼンチンのピエール・オージェ観測所は、約3000平方キロメートルの草原に、水を満たしたタンク約1600基を並べています。
GZK限界という壁
1960年代半ば、3人の物理学者が、宇宙を長い距離飛んでくる宇宙線のエネルギーには上限があるはずだと予言しました。3人の名前の頭文字から「GZK限界」と呼ばれています。
宇宙には、ビッグバンの名残の光である「宇宙マイクロ波背景放射」が満ちています。とても高いエネルギーの陽子は、この光とぶつかるたびにエネルギーを失います。そのため、約50エクサ電子ボルトを超える陽子は、約1億5000万光年より遠くからは、そのままのエネルギーでは届かないと考えられています。
限界を超える宇宙線をめぐる論争
東京大学宇宙線研究所は、山梨県北杜市の明野観測所で、1990年代の初めから2004年まで、当時世界最大の空気シャワーの観測装置AGASAを動かしていました。AGASAは10の20乗電子ボルトを超える宇宙線をとらえ、1998年に、宇宙線のエネルギーの分布がGZK限界を超えて続いていると発表しました。
一方、フライズアイの流れをくむ観測装置HiResと、ピエール・オージェ観測所は、2008年に、GZK限界の予言と合うエネルギーで宇宙線が急に少なくなっていると発表しています。
銀河系の外から来ている証拠
2017年9月、ピエール・オージェ観測所は、約3万個の宇宙線の来た方向を調べた結果を発表しました。8エクサ電子ボルトを超える宇宙線は、天の川銀河の中心から大きく離れた方向からわずかに多く来ていて、その多くは天の川銀河の外で生まれていると考えられるようになりました。
2021年のアマテラス粒子
AGASAの後を継いで、アメリカ・ユタ州の砂漠では、日本やアメリカなどの国際共同研究「テレスコープアレイ実験」が2008年から観測を続けています。約1.2キロメートルおきに507台の検出器を並べ、約700平方キロメートルの範囲を見張っています。
2021年5月27日、現地時間の午前4時35分ごろ、23台の検出器がほぼ同時に信号をとらえました。エネルギーは約244エクサ電子ボルトで、オーマイゴッド粒子に次ぐ、観測史上2番目の高さでした。
研究チームは、発見者が日本人だったことや、現地の明け方に見つかったことなどから、日本神話の太陽の神にちなんで「アマテラス粒子」と名付けました。成果は2023年11月に科学誌サイエンスで発表されています。
とても高いエネルギーの宇宙線は宇宙の磁場で曲げられにくいため、来た方向をたどれば発生源が分かると期待されていました。ところが、アマテラス粒子が来たのは「局所的空洞(ローカル・ボイド)」と呼ばれる銀河の少ない領域の方向で、有力な候補となる天体は見つかりませんでした。
テレスコープアレイ実験は2014年に、おおぐま座の方向から宇宙線が多く来ている「ホットスポット」があると報告していましたが、アマテラス粒子はこの方向とも違っていました。
語られている主な説
激しい天体現象で生まれたという説
発生源の候補として、銀河の中心にある超巨大ブラックホールやそこから噴き出すジェット、宇宙で最も大きな爆発であるガンマ線バースト、とても強い磁場を持つ中性子星などが挙げられています。ただ、どれが本当の発生源なのかは確かめられていません。
鉄のような重い原子核だったという説
宇宙線の正体が陽子なのか、もっと重い原子核なのかは分かっていません。鉄のような重い原子核は、陽子よりも磁場で大きく曲げられるため、発生源はローカル・ボイドの方向からずれた場所にあるかもしれません。
アメリカのニューヨーク大学などの研究者は、2024年に発表した論文で、アマテラス粒子は鉄の原子核だったと考えるのが自然だと主張しました。発生源は、目立たない銀河で一時的に起きた出来事、たとえば超巨大ブラックホールが星を引き裂く現象かもしれないといいます。
近くの銀河M82から来たという説
2026年、ドイツのマックス・プランク物理学研究所の研究者は、宇宙線が磁場で曲げられる様子をコンピューターで再現して、アマテラス粒子の出どころを探りました。その結果、ローカル・ボイドではなく、約1200万光年先にある、星がさかんに生まれている銀河M82のような近くの銀河から来た可能性が高いと発表しています。
今の物理学を超える現象だという説
アマテラス粒子を発表した研究チームは、未知の天体現象や、暗黒物質(ダークマター)が壊れて生まれたといった、今の物理学の枠を超える起源の可能性にも触れています。また、特殊相対性理論が極端に高いエネルギーではわずかに成り立たなくなると考えれば、もっと遠くからでも届くようになるという説もあります。
今も残る謎
GZK限界が正しければ、オーマイゴッド粒子やアマテラス粒子は、宇宙の中では比較的近い場所で生まれたはずです。それなのに、オーマイゴッド粒子の発生源は分かっておらず、アマテラス粒子が来た方向にも、これほどのエネルギーを生み出せそうな天体は見つかっていません。
粒子の正体が陽子なのか重い原子核なのか、どんな天体がこれほどの加速をしているのかも分かっていません。テレスコープアレイ実験では、観測する範囲を約4倍に広げる拡張計画「TAx4」が進められていて、同じような宇宙線をもっと多くとらえることが期待されています。
まとめ
1991年のオーマイゴッド粒子は、粒子1個で野球のボールに近いほどのエネルギーを持つ、観測史上最強の宇宙線です。2021年には、それに次ぐアマテラス粒子も見つかりました。
高いエネルギーの宇宙線の多くは天の川銀河の外から来ていると考えられていますが、個々の粒子の出どころはまだ突き止められていません。観測装置が広がり、データが増えていけば、宇宙で最も激しい現象の正体に近づけるかもしれません。
僕のひとりごと
目に見えない粒子1個が、投げられた野球のボールに近いほどのエネルギーを持っていたと知って、本当に「オーマイゴッド」と言いたくなりました。しかも、1平方キロメートルに100年に1個ほどしか来ないものを、広い砂漠や草原に検出器を並べて待ち続けているという、研究者たちの根気にも驚かされます。
アマテラス粒子が銀河の少ない方向から来ていたというのも、謎が謎を呼ぶようでワクワクします。いつか、この粒子たちのふるさとが分かる日が来るのを楽しみにしています。
参考情報
- 大阪公立大学・東京大学宇宙線研究所ほか「テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出」(プレスリリース、2023年11月、京都大学のサイトに掲載のPDF)
- 大阪公立大学 宇宙線物理学研究室「プレスリリース:テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出」(2023年11月)
- University of Utah「Telescope Array detects second highest-energy cosmic ray ever」(2023年11月)
- University of Utah College of Science「Why Scientists Haven’t Solved the Mystery of the OMG Particle」
- University of Utah Department of Physics & Astronomy「Solving the Mystery of the ‘OMG Particle’」
- Quanta Magazine「The Particle That Broke a Cosmic Speed Limit」(2015年5月14日)
- Scientific American「Where did the ‘Oh-My-God’ particle come from?」
- Scientific American「The Second Most Powerful Cosmic Ray in History Came from–Nowhere?」(2023年11月29日)
- sorae「観測史上2番目に高エネルギーな宇宙線を観測 『アマテラス粒子』と命名」(2023年11月27日)
- アストロアーツ「テレスコープアレイ実験史上最大の超高エネルギー宇宙線」(2023年11月30日)
- Phys.org「Oh-My-God Particles」(2011年6月)
- Pierre Auger Observatory「The Pierre Auger Observatory」
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- 日本天文学会 天文学辞典「ピエールオージェ実験」
- 日本天文学会 天文学辞典「テレスコープアレイ」
- 藤井俊博「発見した若手研究者が語る『宇宙の始まりの強力な手がかり』極高エネルギー宇宙線の真実」(講談社ブルーバックス、現代ビジネス、2025年9月2日)
- 講談社「宇宙最強のエネルギー『宇宙線』の謎を追う。すべてのカギは宇宙線が握っていた!」(2025年8月25日)
- ナショナル ジオグラフィック日本版「わずか1gで地球を破壊する最強の宇宙線『アマテラス粒子』とは」(藤井俊博『宇宙線のひみつ』から)
- 東京大学宇宙線研究所「明野観測所」
- 文部科学省「最高エネルギー宇宙線の起源-デカジュール粒子による宇宙物理の開拓-(福島 正己)」
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アイキャッチ画像:NASA/JPL-Caltech/STScI/CXC/UofA/ESA/AURA/JHU 約1200万光年先にある、星がさかんに生まれている銀河M82を、スピッツァー、ハッブル、チャンドラの3つの宇宙望遠鏡のデータを合わせて描いた画像です(2006年公開)。色は実際の見た目とは異なります
この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。


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