火星のメタンの謎とは?現れては消える気体は生命の手がかりか

火星のメタンの謎とは?現れては消える気体は生命の手がかりか 未解決ミステリー
NASA/JPL-Caltech 探査車キュリオシティがゲール・クレーターで測ったメタンの量が、季節によって変わる様子を示した図です(2018年公開)

地球の大気にあるメタンという気体は、その多くが生き物によって作られています。そのメタンが火星の大気にもあるという報告が、2000年代から何度も出されてきました。

ところが、火星のメタンは急に増えたり消えたりして、観測する探査機によって結果が食い違います。この記事では、20年以上続く火星のメタンの謎について、確かな事実と語られている説を分けて整理します。

概要

メタンは、炭素1つと水素4つからできた気体(化学式はCH4)です。NASAによると、地球のメタンの大半は生き物が作り出しています。一方で、生命と関係のないしくみでもできます。

火星の大気の中のメタンは、太陽の光によって壊されるため、300年ほどしか残らないと考えられています。今メタンがあるなら、比較的最近どこかで作られたか、地下から出てきたことになるため、火星の今の姿を知る手がかりとして注目されてきました。

確かな事実として分かっていること

2000年代に相次いだ報告

2004年3月、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は、火星を回る探査機マーズ・エクスプレスの観測で、火星の大気にメタンがあることを確認したと発表しました。発表では、火山や熱水の活動のほか、生命の可能性にも触れていました。

2009年1月には、NASAゴダード宇宙飛行センターのチームが、ハワイのマウナケアの望遠鏡による観測から、2003年に火星の北半球でメタンがまとまって放出されていたと発表しました。そのうちの一つは、約1万9000トンと見積もられています。

地上の望遠鏡などの観測では、場所によって最大45ppbほどという報告もありました。ppbは10億分の1を表す単位で、大気の分子10億個のうち45個ほどという意味です。

キュリオシティの測定

NASAの探査車キュリオシティは、2012年8月に火星のゲール・クレーターに着陸しました。車体の中の分析装置SAMの一部「波長可変レーザー分光計」で、取り込んだ火星の大気のメタンを測ることができます。

ところが2013年9月、NASAは、2012年10月から2013年6月までの6回の測定ではメタンが見つからなかったと発表しました。あるとしても1.3ppb以下で、それまでの報告よりずっと少ない量です。

話はここで終わりませんでした。2014年12月、NASAは、2013年の終わりから2014年の初めにかけて、メタンが急に増えていたと発表します。このときの4回の測定の平均は約7ppbで、その前後の約10倍でした。

さらに2018年6月には、火星の約3年分(地球の約6年分)の測定から、メタンの量が季節によって変わることが発表されました。ふだんの量は0.24から0.65ppbほどで、暖かい夏に多く、冬に少なくなる変化を毎年くり返していたのです。

過去最高の21ppb

2019年6月、キュリオシティは、それまでで最も多い約21ppbのメタンを測りました。ところが、すぐ後の測定では1ppbより少なくなっていました。キュリオシティがとらえるメタンは、ときどき急に増え、すぐに消えてしまうのです。

上空と地上の観測がそろった例

一方で、上空と地上の観測がそろった例もあります。2013年6月15日にキュリオシティが約6ppbのメタンを測った翌日、マーズ・エクスプレスもゲール・クレーターの上空で約15ppbのメタンをとらえていたことが、2019年4月に発表されました。

この研究では、メタンの出どころはクレーターの中ではなく、クレーターの東側の地域にある可能性が指摘されています。

上空の探査機には見えないメタン

火星の大気のわずかな気体を調べるために、ESAとロシアの宇宙機関ロスコスモスが送ったのが、エクソマーズのトレース・ガス・オービター(TGO)です。2018年4月から本格的な観測を始めました。

ところが2019年4月、TGOの2018年4月から8月の観測ではメタンが見つからなかったと発表されました。あるとしても0.05ppbより少なく、それまでの報告よりずっと少ない量です。2021年7月には、さらに長い期間の観測から、0.02ppbより少ない可能性が高いと発表されています。

夜に現れ、昼に消える

なぜキュリオシティには見えて、TGOには見えないのでしょうか。キュリオシティのメタンを測る装置は電力を多く使うため、ほかの装置が動いていない夜に主に測っています。一方、TGOは太陽の光を使うため昼に観測していて、しかも調べるのは地面から数キロメートルの上空です。

そこで、夜は大気が落ち着いているため、地面からしみ出したメタンが地表の近くにたまり、昼は大気がかき混ぜられて薄まってしまうという考えが出されました。2021年6月、キュリオシティのチームは、昼にも測ってみたところ、夜には見つかるメタンが昼には見つからなかったと発表しています。

ただし、これですべてが説明できたわけではありません。300年ほど残るはずのメタンが、火星の大気全体にたまっていかないのです。NASAによると、研究者たちは、メタンを予想よりずっと速く壊す、まだ知られていないしくみがあるのではないかと考えています。

語られている主な説

地下の微生物が作っているという説

地球では、微生物などの生き物がたくさんのメタンを作っています。そこで、火星の地下にも微生物がいて、メタンを作っているのではないかという説があります。ただし、NASAは、火星に今の生命や昔の生命がいたという、はっきりした証拠は見つかっていないとしています。

岩石と水の反応でできているという説

生命がいなくても、地下で岩石と水が反応すると、メタンができることがあります。NASAは2024年の発表で、メタンの出どころは、地下深くの水と岩石がかかわる地質のしくみだと考えられるとしています。

地下に閉じ込められたメタンが出てくるという説

大昔にできたメタンが、地下の氷などに閉じ込められていて、少しずつ出てきているという考えもあります。2024年には、NASAゴダード宇宙飛行センターのチームが、過塩素酸塩という塩を含む凍った土の実験から、固まった塩の層がふたのようになり、その下にガスがたまることを示しました。

チームによると、気温が上がったときや、探査車の重みで塩の層が割れたときに、たまっていたメタンが出てくるかもしれないといいます。

探査車の中から出ているという説

2025年4月には、ベルギーの研究所やアメリカのワシントン大学などの研究者が、キュリオシティの測定そのものを疑う論文を発表しました。装置の中には、打ち上げ前に入り込んだ地球の空気のメタンが残っている部分があり、その濃さは火星の大気を測る部分の1000倍以上だといいます。

研究者たちは、そこからわずかに漏れ込むだけでも測定結果を説明できるかもしれないと主張し、同じ火星の大気を2晩続けて測って確かめる実験を提案しています。

今も残る謎

NASAによると、火星の地表でメタンが見つかっているのは、今のところキュリオシティがいるゲール・クレーターだけです。それが本当に火星のメタンなのか、そうだとしたら何が作っているのかは、まだ分かっていません。

当時キュリオシティの分析装置SAMの責任者だったマハフィーは、2019年の時点で、今の測定では生命か地質か、また昔のものか今のものかを見分けられないとしていました。なぜ急に増えるのか、なぜ大気全体にたまらないのか、そして測定そのものは正しいのか、疑問はいくつも残っています。

まとめ

火星のメタンは、2000年代に見つかったと報告されて以来、大きな注目を集めてきました。キュリオシティは、季節によって変わるわずかなメタンや急な増加をとらえましたが、上空のTGOには見えていません。

夜に地表の近くにたまるという説明や、塩の層に閉じ込められているという説、探査車の装置の問題だという説などが出されていますが、答えはまだ出ていません。メタンの正体が分かれば、火星の地下で今何が起きているのかを知る大きな手がかりになりそうです。

僕のひとりごと

僕がこのテーマで一番おもしろいと思ったのは、キュリオシティが最初はメタンを見つけられず、その後に急な増加や季節の変化をとらえたという展開です。新しい観測が出るたびに話がひっくり返っていくのは、まるで推理小説のようです。

探査車の中から漏れているのかもしれないという説まで出てきたのには驚きましたが、測定装置そのものまで疑って確かめようとするのも、科学らしい姿勢だと思います。夜の火星で本当にメタンがしみ出しているのか、答えが出る日を楽しみに待ちたいです。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA/JPL-Caltech 探査車キュリオシティがゲール・クレーターで測ったメタンの量が、季節によって変わる様子を示した図です(2018年公開)

この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。

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