2004年11月、アメリカ西海岸の沖で訓練をしていた海軍の戦闘機パイロットたちが、海の上を動き回る不思議な物体に出会いました。翼も見当たらない、お菓子の「チックタック」のような白い楕円形の物体だったといいます。
この出来事は、艦隊の中心だった空母の名前から「ニミッツ事件」と呼ばれています。この記事では、確かな事実と語られている説を分けて整理します。
概要
事件が起きたのは、2004年11月14日です。場所は、カリフォルニア州サンディエゴの南西約160キロ(100マイル)の太平洋の上でした。原子力空母ニミッツを中心とする艦隊が、ここで訓練を行っていました。
艦隊のミサイル巡洋艦プリンストンのレーダーが正体の分からない物体をとらえ、ニミッツから飛び立った2機のF/A-18Fスーパーホーネット戦闘機が確認に向かいました。パイロットたちは、長さ12メートル(40フィート)ほどの白い物体を目撃したと証言しています。
その後、別の機体の赤外線カメラが撮影した映像は、2020年にアメリカ国防総省が正式に公開しました。映っている現象は、今も「未確認」とされています。
確かな事実として分かっていること
数日前からレーダーに映っていた物体
プリンストンの乗組員たちは、事件の日よりも前から、正体の分からない物体をレーダーで何度もとらえていたと証言しています。ナショナル ジオグラフィックの取材に応じた元乗組員によると、最初に物体が現れたのは11月10日でした。
物体は、高いところから一気に降りてくる動きを見せていたといいます。高さは証言によって違い、約1万8000メートル(6万フィート)から数秒で海面近くまで降りたとも、約2万4000メートル(8万フィート)以上から約6000メートル(2万フィート)まで降りてきたとも語られています。
訓練を中断して現場へ
11月14日、ニミッツから2人乗りのF/A-18Fが2機飛び立ちました。1機を操縦していたのは、第41戦闘攻撃飛行隊「ブラックエーセス」の隊長だったデビッド・フレイバー中佐です。もう1機は、当時まだ若手だったアレックス・ディートリック氏が操縦していました。
フレイバー氏が2023年に議会へ提出した証言によると、2機はもともと空中戦の訓練をする予定でした。ところが、プリンストンの管制官から、訓練を中止して実際の任務に向かうよう指示されたといいます。
白く泡立つ海面と、その上の物体
現場に着いたとき、2機の戦闘機のレーダーには何も映っていませんでした。フレイバー氏によると、その日は晴れて風も弱く、海は穏やかでした。そのため、海面の一か所が白く泡立っているのがよく目立ったといいます。
その上を、白い楕円形の物体が小刻みに動き回っていました。パイロットたちは、物体には翼も回転翼もなく、エンジンの排気のようなものも見えなかったと証言しています。
急加速して消え、約100キロ先に現れた
フレイバー氏の証言によると、ディートリック氏の機体が上空に残って見守る中、フレイバー氏の機体は高度を下げて物体に近づきました。すると物体は、フレイバー氏の機体に向きを合わせるようにして、上昇を始めたといいます。
さらに近づこうとしたとき、物体は急に加速し、目の前から消えてしまいました。直後、プリンストンのレーダーが、約100キロ(60マイル)離れた場所で再び物体をとらえます。フレイバー氏によると、そこは2機が訓練の前に待機する予定だった地点で、この移動には1分もかからなかったといいます。
赤外線カメラがとらえた映像
フレイバー氏たちが空母に戻ったあと、同じ飛行隊の別の機体が飛び立ち、赤外線カメラで物体を撮影しました。撮影したのは、チャド・アンダーウッド氏らの機体です。この映像は、のちに「FLIR」や「チックタック」の映像と呼ばれるようになりました。
白黒の粗い映像には、楕円形の物体が映っています。映像の終わりでは、物体がカメラの追尾から外れ、左の方へ急に動いて画面から消えます。
13年後に広く知られた事件
パイロットたちは、当時この出来事について正式な調査は行われなかったと証言しています。艦に戻ったあとは、仲間から宇宙人の冗談でからかわれるなど、まともに取り合ってもらえなかったといいます。
海軍によると、映像は2007年に乗組員の一人によってインターネットに投稿されていました。事件が広く知られたのは2017年12月です。ニューヨーク・タイムズが、国防総省にUFOを調べる計画があったことを報じ、あわせてこの事件と映像を伝えました。
海軍は2019年、映像が海軍のものであることを認め、映っている物体を「未確認空中現象(UAP)」と位置づけました。そして2020年4月27日、国防総省はほかの2本の映像とともに、この映像を正式に公開しました。
議会で証言したパイロット
2023年7月26日、アメリカ下院の監視委員会の小委員会が、UAPについての公聴会を開きました。フレイバー氏は証人の一人として出席し、2004年に出会った物体の技術は、アメリカのどんな技術よりもはるかに優れていたという趣旨の証言をしました。
語られている主な説
映像は遠くの飛行機だという見方
懐疑的な立場の分析家の中には、赤外線の映像に映っているのは、遠くを飛ぶ普通の飛行機ではないかと指摘する人がいます。ぼやけた楕円形はエンジンの熱がカメラに映ったもので、物体が急に動いたように見えるのは、カメラが追尾をやめたり拡大率を変えたりしたためだ、という説明です。
ただし、これはあくまで映像についての説明です。指摘した分析家自身も、フレイバー氏たちが目で見たものまで説明できるわけではないとしています。パイロットたちは、この説明に反論しています。
人間が作った機体だという見方
秘密の偵察用の無人機など、人間が作った機体だったのではないかという見方もあります。ディートリック氏も、正体は分からず、自然現象や人間の活動によるものだった可能性もあるという趣旨を語っています。
一方でフレイバー氏は、物体は当時のアメリカが持っていたどの機体よりも、はるかに優れていたと証言しています。また、海面の白い泡については、海の中の潜水艦が関係していたのではないかという推測も伝えられていますが、確かめられてはいません。
未知の技術だという見方
経験豊富な戦闘機パイロットが目で見て、艦のレーダーでもとらえられていたことから、人類の知らない技術によるものだと考える人もいます。フレイバー氏自身も、物体は空を飛ぶものに当てはまるはずの、知られている空気力学の原理に従っていなかったと証言しています。
ただ、地球の外から来たものだという確かな証拠は示されていません。ディートリック氏も、何年も前の記憶をもとに結論を急ぐべきではないという立場を示しています。
今も残る謎
この事件の大きな謎の一つは、証言と映像の食い違いです。パイロットたちは、ものすごい速さで動く物体を見たと語っています。一方、懐疑的な分析では、赤外線の映像に映る物体は、ほとんど動いていないとされています。
プリンストンのレーダーが数日にわたってとらえていた反応が何だったのか、海面の白い泡は何だったのかも、はっきりしていません。当時は正式な調査が行われなかったとされ、映像のほかに確かめる手がかりがどれだけ残っているのかも分かりません。国防総省は映像を公開しましたが、物体の正体は、公式には今も明らかになっていません。
まとめ
ニミッツ事件は、2004年11月14日、カリフォルニア州の沖で、空母ニミッツの戦闘機パイロットたちが白い楕円形の物体に遭遇した出来事です。物体は急加速して姿を消し、約100キロ離れた場所でレーダーに再び映ったと証言されています。
別の機体が撮影した赤外線の映像は、2020年に国防総省が正式に公開し、今も「未確認」とされています。映像は遠くの飛行機だという見方もありますが、パイロットたちの目撃やレーダーの反応まで説明できる答えは、まだ出ていません。
僕のひとりごと
僕がこの事件で一番ひかれたのは、目撃したのが、空を飛ぶことのプロである戦闘機のパイロットたちだったところです。しかも、2機の戦闘機から同じ物体を見ていて、レーダーの反応もあったというのですから、ただの見間違いとは片づけにくいと感じました。
一方で、映像は遠くの飛行機かもしれないという指摘を読むと、映像だけで判断することの難しさも感じます。ディートリックさんが結論を急がない姿勢を見せているのは、とても誠実だと思いました。
参考情報
- David Fravor「Statement for the House Oversight Committee」(2023年7月、米下院の公聴会の資料)
- 米下院 Committee Repository「Unidentified Anomalous Phenomena: Implications on National Security, Public Safety, and Government Transparency」(2023年7月26日)
- CBS News(60 Minutes)「Navy pilots recall “unsettling” 2004 UAP sighting」(2021年5月16日)
- HISTORY「When Top Gun Pilots Tangled with a Baffling Tic-Tac-Shaped UFO」(2019年5月16日、2025年5月28日更新)
- National Geographic「How the Pentagon learned to start worrying and investigate UFOs」(2021年6月25日)
- 日本経済新聞(ナショナル ジオグラフィック日本版の記事)「米西海岸沖に現れたUFO『チクタク』 目撃者の証言」(2021年8月4日)
- NBC News「Navy confirms videos did capture UFO sightings, but it calls them by another name」(2019年9月19日)
- Military.com「Navy Declassifies its Notorious ‘UFO Sighting’ Videos」(2020年4月27日)
- The Register「Watch now the three UFO videos uncovered by Blink-182 star – and today officially released by the Pentagon」(2020年4月27日)
- AFPBB News「『UFO』映像3本、米国防総省が公開 海軍機が撮影」(2020年4月)
- CNN.co.jp「米国防総省、UFO映像3本を正式公開」(2020年4月28日)
- NPR(KTEP掲載)「Secret Pentagon Program Spent Millions To Research UFOs」(2017年12月17日)
- Futurism「Navy Pilot Describes Bizzare “Tic Tac” UFO Encounter He Filmed」(2019年12月20日)
- Task & Purpose「Navy pilot remembers the ‘absurdity’ of her famous UFO sighting」(2021年5月27日)
- News24(ロイター通信)「’Normalising’ UFOs – retired US Navy pilot recalls Tic Tac encounter」(2021年6月25日)
- VICE「The Skeptic’s Guide to the Pentagon’s UFO Videos」(2020年5月6日)
- AviationPros(The San Diego Union-Tribune)「Those Amazing Navy UFO Videos May Have Down-to-Earth Explanations, Skeptics Contend」(2021年6月1日)
- CNN.co.jp「『非人間パイロットの遺体を米政府が保有』、空軍元将校がUFO公聴会で証言」(2023年7月27日)
アイキャッチ画像:U.S. Navy photo by Journalist 3rd Class Chris Edilson(パブリックドメイン、Wikimedia Commons経由) 2005年10月3日にインド洋で撮影された、空母ニミッツに着艦する第41戦闘攻撃飛行隊のF/A-18Fです。事件のときの写真ではなく、参考の写真です
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