ハッブル・テンションとは?宇宙の膨張の速さが測り方で合わない謎

ハッブル・テンションとは?宇宙の膨張の速さが測り方で合わない謎 未解決ミステリー
NASA, ESA, CSA, STScI, A. Riess (JHU/STScI)(CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ 、ESA/Webb経由) ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡のデータを合わせた、約1億3000万光年先の銀河NGC 5468の画像です

宇宙は、今も膨張を続けています。では、その膨張はどれくらいの速さなのでしょうか。

この単純に思える問いに、天文学者たちは今、はっきりと答えられずにいます。測り方によって、答えが食い違ってしまうのです。この記事では、「ハッブル・テンション」と呼ばれるこの謎について、確かな事実と語られている説を分けて整理します。

概要

宇宙の膨張の速さは、「ハッブル定数」という数字で表されます。遠くの銀河ほど速く遠ざかっていて、その速さが距離に比例するという関係から求められる数字です。

単位は「キロメートル毎秒毎メガパーセク」です。1メガパーセクは約326万光年で、たとえばハッブル定数が70なら、銀河までの距離が1メガパーセク増えるごとに、遠ざかる速さが秒速70キロメートルずつ大きくなることを表します。

問題は、宇宙誕生のころの光から計算した値がおよそ67なのに、近くの銀河を使って直接測った値はおよそ73になることです。この食い違いは「ハッブル・テンション」と呼ばれ、日本語では「ハッブル定数の緊張」とも呼ばれています。

確かな事実として分かっていること

宇宙の膨張の発見

遠くの銀河ほど速く遠ざかっていることは、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルが1929年の論文で発表しました。ただし、ベルギーの宇宙物理学者で神父でもあったジョルジュ・ルメートルが、その2年前の1927年に、同じ関係を論文で導いていました。

ルメートルの論文はフランス語で書かれていて、当時は広く知られませんでした。国際天文学連合は2018年、この法則を「ハッブル-ルメートルの法則」と呼ぶことを勧める決議を採択しています。なお、ハッブルが最初に求めた値は約500で、今の値の7倍ほどもありました。

近くの宇宙で測る「距離のはしご」

近くの宇宙でハッブル定数を測るには、銀河までの距離と、遠ざかる速さの両方が必要です。距離を測るのに使われるのが、本来の明るさが分かる天体を段階的に使っていく「距離のはしご」という方法です。

まず、明るさが変わる周期から本来の明るさが分かる「セファイド変光星」を使って、近くの銀河までの距離を測ります。次に、同じ銀河で起きた「Ia型超新星」の本来の明るさを確かめ、それを手がかりに、もっと遠くの銀河までの距離を測るのです。

Ia型超新星は、1998年に宇宙の膨張が加速していることが発見されたときにも使われた天体です。

詳しくはこちら:ダークエネルギーとは?宇宙の膨張を加速させる正体不明の力

この加速膨張の発見でノーベル物理学賞を受賞した天文学者アダム・リースが率いるチームは、この「距離のはしご」を使って、およそ73という値を出しています。

宇宙誕生のころの光から計算する

もう一つの方法は、宇宙が生まれて約38万年後に放たれた光「宇宙マイクロ波背景放射」を使うものです。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が2009年に打ち上げたプランク衛星は、この光を全天にわたって精密に観測しました。

この光に刻まれた細かなムラを、今の宇宙の標準的な理論に当てはめると、現在の膨張の速さを計算で求めることができます。プランク衛星の最終的な観測結果から求めた値は、67.4(誤差は0.5)でした。

ウェッブ宇宙望遠鏡でも確かめられた

近くの宇宙で測った値が大きく出るのは、測定のどこかに誤りがあるからではないか、という疑いもありました。たとえば、遠くの銀河のセファイド変光星に周りの星の光が混ざり、明るさを見誤っている可能性です。

そこでリースらのチームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線の目で、あらためてセファイド変光星を観測しました。対象には、約1億3000万光年離れた銀河NGC 5468も含まれ、観測したセファイド変光星は約1000個にのぼります。

2023年と2024年に発表された結果では、ウェッブの観測はハッブル宇宙望遠鏡の測定と一致しました。研究チームは、測定の誤りが食い違いの原因である可能性は非常に低いとしています。

別の方法でも「速い」膨張

2025年12月には、東京大学の研究者も参加する国際チーム「TDCOSMO」が、まったく別の方法による測定結果を発表しました。遠くの明るい天体「クエーサー」の光が、手前の銀河の重力で曲げられて複数の像に見える「重力レンズ」を利用する方法です。

像ごとに光が届くまでの時間がずれることを利用して、8つの重力レンズのクエーサーを中心に、ほかの重力レンズの観測も合わせて分析した結果、ハッブル定数は71.6となりました。近くの宇宙で測った値に近い結果です。ただし誤差はまだ4.5%ほどあり、チームは精度を1.5%まで高めることを目指しています。

さらに2026年4月には、約40人の専門家による研究会から生まれた国際共同研究の結果が発表されました。セファイド変光星や赤色巨星、Ia型超新星など、さまざまな方法による距離の測定を組み合わせたもので、ハッブル定数は73.50(誤差は0.81)と、約1%の精度で求められています。

この値は、宇宙誕生のころの光などから求めた値と、統計的に見て偶然とは考えにくいほど食い違っていました。研究チームは、近くの宇宙の測定に見落とされた誤りが一つあるだけ、という説明は難しくなったとしています。

語られている主な説

測り方にまだ気づいていない問題がある

一つは、測定の側にまだ気づかれていない問題がある、という考えです。シカゴ大学のウェンディ・フリードマンらのチームは、セファイド変光星に加えて、赤色巨星や炭素星なども使って距離を測り、約70という、二つの値の間の結果を出しています。

フリードマンらは、2024年に発表したウェッブ宇宙望遠鏡による測定で、ハッブル・テンションの強い証拠は見つからなかったとしています。一方で、ほかの方法でも近くの宇宙の値は大きく出ていて、測定の誤りだけでは説明しにくいという見方も強まっています。

宇宙の初めごろに別のダークエネルギーがあった

宇宙が生まれて間もないころだけ、今とは別の「初期のダークエネルギー」が働いていたという説もあります。2019年に発表された論文では、このようなエネルギーがあれば、宇宙誕生のころの光から計算されるハッブル定数が大きくなり、食い違いを解消できると主張されています。

NASAも、ハッブル・テンションを説明する候補として、初期のダークエネルギーのほか、未知の粒子や、重力の理論を見直す考えなどを挙げています。

私たちは宇宙の巨大な「空洞」の中にいる

地球のある銀河系が、物質の少ない巨大な空洞の中心近くにあるという説もあります。空洞の外側の物質の重力に引っぱられて周りの銀河が外向きに動くため、近くの宇宙の膨張が実際より速く見えるという考えです。

2025年7月、イギリスの王立天文学会の会議で、ポーツマス大学の研究者がこの説を支える分析を発表しました。この説が成り立つには、空洞の半径が約10億光年、物質の密度が宇宙の平均より約20%低い必要があるとされています。ただし、宇宙の標準的な理論とはあまり合わないため、議論のある説です。

今も残る謎

ハッブル・テンションの一番の謎は、どちらの側の測定も、それぞれ高い精度で確かめられてきたことです。二つの値の差は、新しい測定を重ねても埋まっていません。

ただし、約70という値を出すチームもあり、研究者の間でも見方は分かれています。もし食い違いが本物なら、今の宇宙の標準的な理論に、何かが欠けていることになります。その先には、宇宙の新しい姿が隠れているのかもしれません。

まとめ

ハッブル定数は、宇宙の膨張の速さを表す数字です。宇宙誕生のころの光から計算するとおよそ67、近くの宇宙で直接測るとおよそ73と、値が食い違っていて、これが「ハッブル・テンション」と呼ばれています。

ウェッブ宇宙望遠鏡や重力レンズなどを使った新しい測定でも、食い違いは消えていません。測定の問題なのか、それとも宇宙の理論に未知の何かが隠れているのか、答えはまだ出ていません。

僕のひとりごと

僕がこのテーマで面白いと思ったのは、67と73という、ほんの少しの差に見える数字が、宇宙の理論をゆるがすほどの大問題になっていることです。ハッブルが最初に出した値が今の7倍ほどもあったことを思うと、ここまで細かく測れるようになったこと自体がすごいですよね。

ウェッブ宇宙望遠鏡で確かめ直しても差が消えなかったと知ったときは、ちょっとぞくっとしました。この小さな食い違いの先に何が待っているのか、これからの測定の結果が楽しみです。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA, ESA, CSA, STScI, A. Riess (JHU/STScI)(CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ 、ESA/Webb経由) ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡のデータを合わせた、約1億3000万光年先の銀河NGC 5468の画像です

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