2029年4月13日、1つの小惑星が地球のすぐそばを通り過ぎます。名前は「アポフィス」。気象衛星などが回る静止軌道よりも内側を通るほどの近さです。
アポフィスは、見つかった年の暮れに「地球に衝突するかもしれない」と大きな注目を集めた小惑星でもあります。この記事では、アポフィスについて分かっていることと、この大接近をねらう探査計画を紹介します。
概要
アポフィスは、地球の近くを回る小惑星の一つです。平均の直径は、NASAによると約340メートル、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)によると約375メートルとされています。
2029年4月13日(世界時)、アポフィスは地球の表面から約3万2000キロメートルのところを通過します。月までの距離の10分の1にも満たない近さですが、衝突するおそれはありません。
確かな事実として分かっていること
アポフィスはどんな小惑星か
アポフィスは2004年6月19日、アメリカ・アリゾナ州のキットピーク国立天文台で見つかりました。名前は、古代エジプト神話に登場する、混沌や破壊をもたらす神に由来します。アポフィスは、その神のギリシャ語での呼び名です。
レーダー観測から、アポフィスは細長く、2つのかたまりがくっついたような形をしている可能性があると考えられています。岩石に、ニッケルや鉄などの金属がまざった「S型」と呼ばれるタイプの小惑星です。今は、1年より少し短い約0.9年で太陽の周りを1周しています。
一時は「2029年に衝突するかもしれない」とされた
2004年12月、アポフィスはオーストラリアの天文台で再び観測されました。その結果も合わせた計算で、2029年4月13日に地球に衝突する確率は、一時は約2.7%(およそ37分の1)にまで上がりました。
小惑星の衝突の危険度を0から10の11段階で表す「トリノスケール」でも、アポフィスはそれまで例のなかったレベル4と評価されました。
ところが2004年12月27日、アメリカの観測チームが、同じ年の3月15日に撮影されていた古い画像の中にアポフィスが写っているのを見つけました。観測の期間が長くなったことで軌道の計算が正確になり、2029年に衝突する可能性はなくなりました。
2068年の衝突の可能性が消えるまで
それでも、もっと先の2068年に衝突する可能性は残っていました。2020年には、ハワイ大学の研究者が、すばる望遠鏡の観測をもとに、アポフィスの軌道が重力だけで決まる道すじから、1年に約170メートルずつずれていると発表しました。
これは、太陽に温められた小惑星が熱を放つときに生まれる、ごく弱い力によるもので、「ヤルコフスキー効果」と呼ばれます。この効果が確かめられたことで、2068年に衝突する可能性は、まだ否定できないとされました。
決着がついたのは2021年3月です。地球から約1700万キロメートルのところを通過したアポフィスを、アメリカの2つの大型電波望遠鏡がレーダーで精密に観測しました。その結果をもとに、NASAは、少なくとも今後100年は衝突の危険はないと発表しました。
2029年4月13日の大接近
NASAジェット推進研究所の計算では、最接近は世界時で2029年4月13日の21時46分、日本時間では4月14日の午前6時46分ごろです。地球の表面からの距離は約3万2000キロメートルで、高さ約3万6000キロメートルの静止軌道を回る人工衛星よりも内側を通ります。
この大きさの小惑星がここまで地球に近づくのは、NASAによると平均して数千年に1度、ESAによると5000年から1万年に1度とされています。前もって分かっている接近としては、この大きさの小惑星で最も近いものになります。
天気がよければ、ヨーロッパやアフリカ、アジアの一部では、望遠鏡や双眼鏡を使わずに肉眼で見える見込みです。また、地球の重力の影響を受けて、接近のあとはアポフィスの軌道が少し大きくなり、太陽の周りを1周する時間が長くなると予想されています。
アポフィスをめざす探査計画
2029年は、国連が「小惑星認識と惑星防衛の国際年」と定めた年でもあります。この大接近に合わせて、NASA、ESA、JAXAが、アポフィスを間近で調べる計画を進めています。
NASAのOSIRIS-APEX
OSIRIS-APEXは、2023年に小惑星ベンヌの試料を地球に届けた探査機「オサイリス・レックス」が、名前を変えて新しい旅を続けているものです。
詳しくはこちら:オサイリス・レックスが持ち帰ったベンヌの試料 生命の材料と塩水の跡
アポフィスには、大接近のあとの2029年6月に到着し、約1年半かけて観測する予定です。
NASAによると、探査機はアポフィスの表面から約5メートルのところまで近づき、スラスター(小型のエンジン)を下に向けて噴射する計画です。表面の石や砂を舞い上げて、その下にある物質を調べます。
ESAとJAXAのラムセス
ESAが中心となって進める探査機「ラムセス」は、大接近の前にアポフィスに到着し、接近の前から後までそばで観測を続けます。2028年の春に打ち上げ、2029年2月にアポフィスに到着する計画です。
2026年5月7日には、ESAとJAXAがラムセスでの協力の取り決めに署名しました。JAXAは、H3ロケットでの打ち上げのほか、薄くて軽い太陽電池パドルと、熱赤外線をとらえるセンサーを提供します。
ラムセスは、ESAの探査機ヘラの技術を多く受け継いでいて、ヘラと同じように2機の小型衛星(キューブサット)を運びます。ヘラは、2022年にNASAのDART探査機が体当たりした小惑星を調べるために打ち上げられた探査機です。
詳しくはこちら:DART探査機の小惑星衝突実験とは?人類が初めて天体の動きを変えた日
JAXAのDESTINY+
ラムセスと同じH3ロケットに相乗りして打ち上げられるのが、JAXAの探査機「DESTINY+(デスティニープラス)」です。本来の目的地は、ふたご座流星群のもとになっている小惑星フェートンです。
DESTINY+は、その旅の途中でアポフィスのそばを通り過ぎながら観測する予定で、JAXAはこれをフェートンでの観測のリハーサルと位置づけています。
語られている主な説
地球の重力で揺れや地すべりが起きる?
大接近のとき、アポフィスは地球の重力によって引っ張られたり、ねじられたりすると予想されています。NASAは、その結果、自転の速さが変わったり、表面で揺れや地すべりが起きたりする可能性があると説明しています。
ただし、実際にどれほどの変化が起きるのかは、探査機の観測を待つ必要があります。
ほかの小惑星にぶつかって進路が変わる?
アポフィスがほかの小惑星とぶつかって進路が変わり、地球に向かうことはないのかという心配もあります。2024年、カナダのウェスタン大学などの研究者が、知られている小惑星すべての動きを計算して、この可能性を調べました。
その結果、2029年までにアポフィスにぶつかる小惑星は見つからず、そうしたおそれはほとんどないと結論づけられています。
今も残る謎
アポフィスの内部がどのようなつくりになっているのかは、まだよく分かっていません。地球の重力を受けたときにどう変わるかを観測できれば、その手がかりが得られると考えられています。
小惑星の内部のつくりは、地球に向かってくる小惑星の進路を変えるときにも大切な情報になります。ESAとJAXAは、ラムセスの観測で得られる知識が、将来の地球防衛に役立つとしています。
まとめ
アポフィスは、2004年に見つかったあと、2029年に地球に衝突する確率が一時2.7%と計算された小惑星です。その後の観測で、少なくとも今後100年は衝突の危険がないことが確かめられました。
2029年4月13日の大接近では、OSIRIS-APEX、ラムセス、DESTINY+の3機が、数千年に1度ともいわれるこの機会に、小惑星の素顔に迫ろうとしています。
僕のひとりごと
僕がこの話で一番おもしろいと思ったのは、2029年の衝突の可能性が、それより前に撮られていた古い画像のおかげで消えたというところです。新しい観測だけでなく、過去の記録を見直すことが大きな答えにつながったことに、天文学の地道さを感じました。
かつて人類を心配させた小惑星が、今では探査機が待ちかまえる観測の主役になっているのも不思議な巡り合わせです。2029年の春、地球の重力でアポフィスがどんなふうに変わるのか、今から楽しみです。
参考情報
- NASA Science「Apophis Facts」
- NASA Science「Apophis Exploration」
- NASA Science「OSIRIS-APEX」
- NASA「NASA Asteroid Sampling Mission Renamed OSIRIS-APEX for New Journey」
- NASAジェット推進研究所「NASA Analysis: Earth Is Safe From Asteroid Apophis for 100-Plus Years」(2021年3月)
- NASAジェット推進研究所 太陽系力学グループ「Close Approach Data API」(アポフィスの2029年の地球接近のデータ)
- NASAジェット推進研究所 地球接近天体研究センター「The Torino Impact Hazard Scale」
- ESA「Apophis」
- ESA「Ramses: ESA’s mission to asteroid Apophis」
- ESA「ESA awards contracts for Ramses mission to Apophis」(2026年2月)
- ESA「ESA and JAXA team up on planetary defence, Ramses mission to asteroid Apophis」(2026年5月7日)
- ESA「Earth’s gravity will alter Apophis orbit during 2029 flyby」(2021年3月)
- ESA「Hera mission overview」
- JAXA「欧州宇宙機関(ESA)との地球防衛に関する協力覚書(MOC)及び地球接近小惑星アポフィス探査計画(RAMSES)の協力協定の締結」(2026年5月8日)
- JAXA宇宙科学研究所「DESTINY+」
- 日本天文学会2026年春季年会 講演予稿「「小惑星認識と惑星防衛の国際年」に向けた地球接近天体観測キャンペーン」
- ハワイ大学「Massive asteroid subject of new findings」(2020年10月26日)
- 国際天文学連合 地球接近天体ワーキンググループ「Near-Earth Asteroid 2004 MN4」(2004年12月30日)
- The Space Review「Revising the Torino Scale」(2005年1月3日)
- Astronomy「2004 MN4: swing and a miss」
- Astronomy「June 19, 2004: Asteroid Apophis is discovered」(2026年6月19日)
- spacetoday.net「2029 asteroid impact ruled out」(2004年12月28日)
- ウェスタン大学「’Zero chance’ infamous Apophis collides with another asteroid, redirects to Earth」(2024年3月4日)
- The Weather Network「Could a collision cause asteroid Apophis to hit Earth? New study says no」(2024年3月6日)
- Scientific American「Spacecraft will swarm asteroid Apophis during fateful 2029 Earth flyby」(2026年7月30日)
- The Planetary Society「OSIRIS-APEX」
- アリゾナ大学「UArizona-led asteroid sampling mission’s new journey: OSIRIS-APEX」
- Universe Today「Asteroid Apophis’ 2029 Flyby Will Provide a Bonanza of Asteroid Science」
- マイナビニュース「JAXAとESAがRAMSESとDESTINY+で「アポフィス」を探査へ – 協力覚書を締結」(2026年5月11日)
- マイナビニュース「12月の『ふたご座流星群』をより深く楽しもう。出現ピークは14日夜」(2025年12月12日)
- 宙畑(space-connect)「2029年に地球接近の小惑星アポフィス探査へ、JAXAとESAが協力」(2026年5月12日)
- innovatopia「ESAとJAXA、小惑星アポフィス観測ミッション「ラムセス」承認。2029年の歴史的接近で惑星防衛技術を実証」(2025年12月28日)
- Forbes JAPAN「「混沌の神」アポフィス、地球最接近まで1000日切る 肉眼で観測可能な小惑星」(2026年7月20日)
- Business Insider Japan「東京タワーサイズの小惑星が地球付近を通過…次にやってくる8年後は肉眼で見える距離に」(2021年3月11日)
- ギズモード・ジャパン「2068年4月、小惑星アポフィスが地球に衝突するかもしれない。」(2020年11月2日)
- ニューズウィーク日本版「小惑星が地球の重力で歪む…数千年に一度の最接近、人類史上初の観測チャンス」(2026年4月20日)
アイキャッチ画像:NASA/JPL-Caltech 2029年4月13日の最接近のころのアポフィスの通り道を表した、NASAのアニメーションの1場面です。青い点は地球を回る人工衛星、ピンクは国際宇宙ステーションを表しています
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