大きな環をまとった土星は、太陽系の惑星の中でもひときわ目を引く存在です。ところが、この環がいつできたのかについては、今も専門家の意見が分かれています。
環は、土星と一緒に約45億年前に生まれたのでしょうか。それとも、土星の歴史から見ればごく最近になってできたのでしょうか。この記事では、探査機の観測で分かってきたことと、語られている主な説を整理します。
概要
土星は太陽から6番目の惑星で、太陽系のほかの惑星と同じく、約45億年前に生まれたと考えられています。NASAによると、環は土星から最大で約28万2000キロメートルのところまで広がっています。差し渡しはとても大きいのに、厚みはとても薄いのが特徴です。
環の正体は、土星の周りを回る無数の氷の粒やかたまりです。そのほとんどは水の氷で、岩石などのまじりものはごくわずかしかありません。
この環が土星と同じくらい古いのか、それとも数千万年前から数億年前にできた若いものなのか。それが、長く続いている論争です。
確かな事実として分かっていること
ガリレオには「耳」に見えた
1610年、ガリレオ・ガリレイは望遠鏡で土星を観測し、両側に耳のようなものが付いていることに気づきました。当時の望遠鏡では形がはっきりせず、ガリレオは土星の両側に小さな星が2つあると考えました。
ところが1612年の終わりごろには、この「耳」が見えなくなってしまいます。地球から見て、環がちょうど真横を向いたためでした。その正体が環であることを見抜いたのは、1650年代に、より性能の良い望遠鏡で土星を観測したオランダのホイヘンスでした。
カッシーニが量った環の重さ
環の年齢を考える大きな手がかりをもたらしたのが、NASAなどの探査機カッシーニです。カッシーニは2004年から土星を回って観測を続け、2017年9月15日に土星の大気に飛び込んで運用を終えました。
詳しくはこちら:土星の衛星エンケラドゥスの間欠泉とは?地下の海に生命はいるのか
最後の約5か月間、カッシーニは「グランドフィナーレ」と呼ばれる段階に入り、土星の本体と環のすき間を22回くぐり抜けました。環のすぐそばを通るカッシーニの動きは、環の重力でわずかに変わります。その変化を地球から精密に測ることで、環の重さを見積もることができたのです。
2019年1月、カッシーニのデータを分析したイタリアやアメリカなどの研究チームは、環の重さが土星の衛星ミマスの約4割しかないと、科学誌サイエンスに発表しました。
環は、外から降ってくるちりで少しずつ汚れていきます。軽い環ほど、今の汚れ具合になるまでの時間は短くて済みます。そこでチームは、環ができたのは1000万年前から1億年前だと見積もりました。
降り積もるちりから見積もった「長くても4億年」
2023年5月には、アメリカのコロラド大学ボルダー校などの研究チームが、別の方法で環の年齢を調べた結果を、科学誌サイエンス・アドバンシズに発表しました。カッシーニのちりの分析装置が2004年から2017年までに集めたデータの中から、土星の外からやってきたちりを約160個選び出し、環に降り積もるちりの量を見積もったのです。
その結果、環が今の汚れ具合になるまでの時間は、長くても4億年ほどだとされました。土星の年齢の1割にも満たない長さです。
環は土星に降り注いでいる
環は、少しずつ失われてもいます。2018年12月、NASAの研究者らは、環の氷の粒が土星に引き寄せられ、雨のように降り注いでいると発表しました。その量は、30分ほどでオリンピック用のプールがいっぱいになるほどだといいます。
この「環の雨」だけでも、環は約3億年でなくなる計算です。カッシーニが観測した、環から土星の赤道に落ちる物質も加えると、環が残っていられるのは1億年もないかもしれないとされています。
語られている主な説
壊れた衛星から若い環ができたという説
環が若いなら、どうやってできたのかが問題になります。有力な考えの一つが、土星を回っていた衛星が壊れ、そのかけらが環になったという説です。
2022年9月、アメリカのマサチューセッツ工科大学などの研究チームは、土星で3番目に大きい衛星と同じくらいの大きさの衛星が、1億年から2億年ほど前に土星に近づきすぎて引き裂かれたという説を発表しました。チームはこの幻の衛星を、さなぎを意味する「クリサリス」と名づけています。
かけらの大部分は土星に落ち、残ったわずかな部分が環になったと考えられています。この説は、土星の自転軸が26.7度傾いている理由も説明できるとされています。
2023年には、NASAのエイムズ研究センターやイギリスのダラム大学などのチームが、氷でできた2つの衛星が数億年前にぶつかり合い、そのかけらから環ができた可能性をシミュレーションで示しました。
2026年2月には、アメリカのSETI研究所などの研究チームが、新しい説を発表しています。土星最大の衛星タイタンに別の衛星がぶつかったことをきっかけに、内側の衛星たちの軌道が乱れて衝突し、環ができたというものです。
環は土星と同じくらい古いという説
一方で、環は土星とほぼ同じくらい古いと考える研究者もいます。2019年9月、フランスなどの研究者たちは、昔の重い環は時間とともに広がって物質を失い、約40億年たつと、カッシーニが測った今の重さに近づくという計算を示しました。何らかの仕組みで環がきれいにされ、実際より若く見えている可能性も指摘しています。
2024年12月には、東京科学大学などの兵頭龍樹さんや玄田英典さんらの研究チームが、科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに新しい研究を発表しました。小さな隕石が環の氷の粒にとても速くぶつかると、隕石は蒸発して電気を帯びた細かい粒になり、土星に落ちるか宇宙へ飛ばされていくことを、シミュレーションで示したのです。
つまり環は、ちりで汚れにくいのかもしれません。研究チームは、環が太陽系と同じくらい古い可能性があるとしています。
今も残る謎
一番の問題は、ちりの汚れ具合から分かるのは、環が「ちりを浴びてきた時間」であって、環が「生まれた時期」と同じとは限らないことです。ちりがどれだけ環に残るのか、汚れが落ちる仕組みがあるのかによって、見積もりは大きく変わります。
2026年には、2019年の研究を率いた研究者も加わったチームが、これまでの計算の前提を見直すと、環がちりを浴びてきた時間は数十億年にもなりうるという論文を、学術誌イカルスで発表しました。若い環という見方への新たな反論ですが、議論に決着がついたわけではありません。
環がどうやってできたのかも、まだ分かっていません。若い環だとすると、衛星を壊すような出来事がごく最近に起きたことになりますが、どの説もまだ確かめられていません。決着をつけるには、土星と環をじっくり調べる新しい探査が必要だという声もあります。
もし環が若く、しかもいずれ消えてしまうのなら、人類はちょうど環のある時期の土星を見ていることになります。このめぐり合わせを幸運だと考える研究者もいれば、偶然にしてはでき過ぎていると見る研究者もいます。
まとめ
土星の環は、ほとんどが水の氷でできた無数の粒の集まりです。カッシーニの観測から、環は軽く、ちりの汚れも少ないことが分かり、数千万年前から数億年前にできた若い環だという見方が広がりました。
一方で、環は汚れにくいだけで、土星と同じくらい古いという説も根強くあります。若い環なら、壊れた衛星から生まれたのか。古い環なら、なぜきれいなままなのか。環の年齢をめぐる論争は、今も続いています。
僕のひとりごと
僕がいちばんおもしろいと思ったのは、ちりの汚れ具合という同じ手がかりから、若い環とも、土星と同じくらい古い環とも読めてしまうことです。きれいな環を見て「若いからきれい」と考えるか、「汚れにくいからきれい」と考えるかで、答えがまるで変わるんですね。ガリレオが耳のようだと思った時代から400年以上たった今も、土星の環は大きな謎を抱えたままです。いつか新しい探査機が、この論争に決着をつけてくれる日を楽しみに待ちたいです。
参考情報
- NASA「Saturn: Facts」
- California Academy of Sciences「Ringing Cassini’s Epic Mission to a Grand Finale」
- Astronomy「July 30, 1610: Galileo sees Saturn’s rings」
- NBC News(Space.com)「Saturn’s rings to disappear Tuesday」(2009年8月10日)
- 三菱電機 DSPACE「土星の『耳』は『渋滞する粒々』だった。」(2004年7月)
- TECH+「機械時計と土星の環 – どこでもサイエンス(251)」(2023年1月25日)
- コトバンク「土星」
- 日本天文学会 天文学辞典「ホイヘンス」
- 日本天文学会 天文学辞典「カッシーニ探査機」
- ファン!ファン!JAXA!「バイバイ、カッシーニ ー 土星探査機カッシーニの最後のミッション」
- NASA「Cassini」
- カリフォルニア大学バークレー校「Saturn hasn’t always had rings」(2019年1月17日)
- Sci.News「Saturn’s Rings are 10 to 100 Million Years Old, Much Younger than Planet」(2019年1月18日)
- 科学技術振興機構 サイエンスポータル「土星の輪ができたのは太陽系の歴史では『ごく最近』だったようだ」(2019年1月24日)
- コロラド大学ボルダー校「How old are Saturn’s rings? Far younger than once thought, according to new study」(2023年5月12日)
- Science News「Saturn’s rings may be no more than 400 million years old」(2023年5月22日)
- NASA「Saturn’s Rings: Young and Ephemeral, Three NASA Ames Studies Say」(2023年5月22日)
- NASA「NASA Research Reveals Saturn is Losing Its Rings at Worst-Case-Scenario Rate」(2018年12月17日)
- CNN.co.jp「土星の環、1億年足らずで消滅か NASA研究」(2018年12月19日)
- MIT News「Saturn’s rings and tilt could be the product of an ancient, missing moon」(2022年9月15日)
- カリフォルニア大学バークレー校「Chrysalis, the lost moon that gave Saturn its rings」(2022年9月15日)
- Business Insider Japan「土星の環は、崩壊した衛星の残骸でできている…新たなシミュレーションモデルが示唆」(2022年9月22日)
- NASA「New Simulations Shed Light on Origins of Saturn’s Rings and Icy Moons」(2023年9月26日)
- Teodoro ほか「A recent impact origin of Saturn’s rings and mid-sized moons」(arXiv、The Astrophysical Journal 955巻、2023年)
- CNN.co.jp「土星最大の衛星タイタンは衛星同士の合体で誕生か、その影響で環ができた可能性も」(2026年2月25日)
- ギズモード・ジャパン「土星の環、お前だったのか。犯人は1億年前に消えた”幻の衛星”」(2026年2月15日)
- Ćuk ほか「Origin of Hyperion and Saturn’s Rings in A Two-Stage Saturnian System Instability」(arXiv、2026年2月)
- Europlanet「Age-old debate on Saturn’s rings reignited」(2019年9月16日)
- パリ地球物理学研究所(IPGP)「Not so young, Saturn’s rings」(2019年)
- サウスウエスト研究所「New SwRI study argues that Saturn’s rings are actually not young」(2019年9月18日)
- Scientific American「How Old Are Saturn’s Rings? The Debate Rages On」(2019年4月18日)
- スペースデータ(PR TIMES、エキサイトニュース掲載)「スペースデータの兵頭龍樹博士、土星の環に関する定説を覆すメカニズムを解明」(2024年12月17日)
- Nature Asia「惑星科学:土星の環が若々しい外観を保っている理由」(Nature Geoscience 掲載論文の紹介)
- パリ地球物理学研究所(IPGP)「A new perspective on the age of Saturn’s rings」(2025年1月23日)
- PBS NewsHour(AP通信)「Study suggests Saturn’s rings could be 4.5 billion years old just like the planet」(2024年12月16日)
- Ricerchi, Crida「Saturn’s rings age I.: Reconsideration of the exposure age」(arXiv、Icarus 掲載、2026年)
- The Daily Galaxy「Saturn’s Rings May Be Younger Than the Dinosaurs, and Scientists Are Still Trying to Explain How They Formed」(2026年5月29日)
- NASA Photojournal「The Greatest Saturn Portrait …Yet」(PIA06193)
アイキャッチ画像:NASA/JPL/Space Science Institute 探査機カッシーニが2004年10月6日に約2時間かけて撮影した126枚の画像をつなぎ合わせて作った、自然な色に近い土星と環の姿です
あわせて読みたい



この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。











コメント