月の裏側はなぜ地球から見えない?表と裏で顔がまったく違う謎

月の裏側はなぜ地球から見えない?表と裏で顔がまったく違う謎 未解決ミステリー
NASA NASAのアルテミス2号のミッション中、2026年4月6日に撮影された月です。右側の黒っぽい模様(海)が広がる部分が地球から見える表側で、左寄りの部分には地球からは見えない裏側が写っています

夜空の月を見上げると、いつも同じ黒っぽい模様が見えます。昨日見た月も、何年も前に見た月も、地球に向けている顔は同じです。

つまり月には、地球からはどうやっても見えない「裏側」があるのです。なぜ裏側は見えないのか、そして初めて見えた裏側が表側とまるで違う姿をしていたのはなぜか。分かっている事実と、まだ答えの出ていない謎を分けて整理します。

概要

月が同じ面を地球に向けているのは、月が回っていないからではありません。月は約27.3日かけて地球の周りを1周する間に、自分自身もちょうど1回転しています。

自転と公転の周期がそろっているため、いつも同じ面が地球の方を向くのです。これを「同期自転」と呼びます。

この状態は偶然ではなく、地球の重力によって生まれたと考えられています。地球の重力は月の形をわずかに引き伸ばし、この変形にともなう摩擦が、月の自転に少しずつブレーキをかけました。そして、自転の速さが公転とそろったところで落ち着いたというわけです。

ただし、地球から見えるのはぴったり半分ではありません。月の軌道が少しつぶれた楕円であることや、自転軸が傾いていることから、月は首を振るようにわずかに揺れて見えます。この「秤動(ひょうどう)」のおかげで、長い時間をかければ、地球から月面の約59%を見ることができます。

確かな事実として分かっていること

1959年、探査機が初めて裏側を撮影した

人類が初めて月の裏側の姿を目にしたのは、1959年10月のことです。旧ソ連の探査機ルナ3号が月のそばを通り過ぎ、10月7日に裏側を撮影しました。

ルナ3号はフィルムで29枚の写真を撮り、機内で現像してから、画像を読み取って地球へ送りました。届いた写真は粗いものでしたが、科学者たちを驚かせます。表側に広がる黒っぽい「海」がほとんどなく、白っぽい「高地」が一面に広がっていたのです。

月の「海」といっても水はなく、大昔に流れ出た溶岩が固まった、黒っぽく平らな土地のことです。

人が自分の目で見たのは1968年

人間が自分の目で裏側を見たのは、1968年12月のアポロ8号が最初です。月を回る軌道に入ったアメリカの3人の宇宙飛行士は、人類で初めて裏側を直接見ました。月の陰に回り込んでいる間、宇宙船と地球との通信は途絶えていました。

2026年4月には、NASAのアルテミス2号の乗組員も月の裏側を回り込み、その姿を観察して写真に収めています。

詳しくはこちら:人類最遠の記録を更新 アルテミス2号、半世紀以上ぶりの有人月飛行

裏側は「暗い側」ではない

英語では月の裏側を「ダークサイド(暗い側)」と呼ぶことがありますが、NASAはこの呼び方は誤解を招くと説明しています。裏側にも、表側と同じように太陽の光が当たるからです。

地球から月が見えない新月のころには、むしろ裏側が太陽の光をいっぱいに浴びています。裏側は「暗い」のではなく、地球から「見えない」だけなのです。

表と裏はまるで別の顔

その後の探査で、表と裏の違いは詳しく分かってきました。月面全体のうち海が占めるのは2割足らずですが、そのほとんどが表側にあり、表側では面積の約3割を海が占めています。一方、裏側の海はごくわずかです。

地殻(月の表面をおおう岩石の層)の厚さも違い、裏側のほうが厚いことが分かっています。また、月の重さの中心(重心)は、形の中心から約2キロメートル、おおむね地球の側にずれています。

2007年に打ち上げられた日本の月周回衛星「かぐや」も、裏側の謎に迫りました。月の裏側にいる探査機とは、地球から直接電波をやりとりできません。そこで、かぐやはリレー衛星「おきな」に電波を中継させ、裏側の重力の分布を直接測りました。

2009年2月に科学誌サイエンスで発表された成果によると、40億年から35億年前ごろの月の内部は、表側が熱く、裏側が冷たかったと考えられます。表と裏の違いは、表面だけでなく内部にまで及んでいたのです。

裏側への着陸と試料の持ち帰り

2019年1月3日には、中国の探査機「嫦娥(じょうが)4号」が、世界で初めて月の裏側への着陸に成功しました。着陸したのはフォン・カルマン・クレーターです。地球と直接通信できない問題は、前年に打ち上げた中継衛星「鵲橋(じゃっきょう)」で解決しました。

2024年6月25日には「嫦娥6号」が、裏側の南極エイトケン盆地で採取した1935.3グラムの試料を地球に持ち帰りました。直径約2500キロメートルにおよぶ、月で最も大きく古い盆地です。裏側の試料が持ち帰られたのは、これが初めてでした。

試料の分析からは、新しい発見が続いています。2024年には、着陸地点で約28億年前に火山活動があったことが報告されました。2025年には、裏側のマントル(地殻の下の層)は表側より水が少ないとする研究や、裏側の溶岩は表側より約100度低い温度でできたとする研究も発表されています。

語られている主な説

なぜ表と裏はこれほど違うのでしょうか。裏側は地殻が厚いため、地下のマグマが地表まで出てきにくかったと考えられています。しかし、なぜ裏側の地殻が厚くなったのかは、今も議論が続いています。

生まれたばかりの地球の熱が影響したという説

月は、大きな天体が地球にぶつかって飛び散ったものからできたという考え(巨大衝突説)が有力とされています。2014年、アメリカのペンシルベニア州立大学の研究チームは、この衝突のあとの高温の地球が原因だとする説を発表しました。

チームは、できたばかりの月がすぐに同じ面を地球に向けるようになり、熱い地球に面した表側が温められたと考えました。その結果、温度の低かった裏側に、アルミニウムやカルシウムなど地殻のもとになる成分が多く積もり、地殻が厚くなったというのです。

巨大な衝突が熱を生む成分を表側へ押しやったという説

2022年、アメリカのブラウン大学などのチームは、裏側の南極エイトケン盆地をつくった巨大な衝突に注目しました。コンピューターで計算すると、衝突で生まれた熱が月の内部を伝わり、トリウムのように熱を出す成分を表側の地下に集めたというのです。

チームは、これらの成分が表側の地下を温めたことで、溶岩を大量に噴き出す火山活動につながったと考えています。

もう1つの小さな月がぶつかったという説

2011年には、アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究者が、昔は地球の周りにもう1つ小さな月があったという説を、科学誌ネイチャーで発表しました。月の30分の1ほどの重さの天体が、ゆっくりした速さで月にぶつかったというものです。

ゆっくりぶつかったため大きなクレーターはできず、ぶつかった天体の物質が片側に厚く積もって、高地ができたと説明しています。ただし同じ大学の別の研究者は、どの説が最も良い説明かを決めるには、まだデータが足りないと指摘していました。

今も残る謎

月がいつも同じ面を地球に向けている仕組みは、潮汐の働きでよく説明されています。一方で、見えない裏側がなぜ表側とこれほど違うのかには、決定的な答えが出ていません。

2009年には国立天文台の研究者が、かぐやの成果を紹介する記事の中で、表と裏の違いの原因はまだ解明されていないと書いています。2025年に嫦娥6号の試料の研究を紹介した記事でも、この違いの起源は議論が重ねられてきた問題として取り上げられています。

嫦娥6号の試料は、裏側から初めて届いた貴重な手がかりですが、裏側の1か所で採られたものにすぎません。そのため、今の分析結果だけで表と裏の違いの理由を決めることはできないという、慎重な見方もあります。

まとめ

月の裏側が地球から見えないのは、月の自転と公転の周期がどちらも約27.3日でそろっているためです。これは、地球の重力が長い時間をかけて月の自転にブレーキをかけた結果と考えられています。

1959年に初めて撮影された裏側は、海がほとんどない、表側とはまるで違う世界でした。かぐやや嫦娥6号などの探査で手がかりは増えていますが、なぜ表と裏がこれほど違うのかは、今も月の大きな謎の一つです。

僕のひとりごと

毎晩のように見上げている月に、まだ誰も理由を説明しきれていない「もう一つの顔」があると思うと、少し不思議な気持ちになります。僕は、裏側が「暗い側」ではなく、ただ地球から「見えない側」だというところが特に好きです。

見えないからこそ、そこに何があるのか想像がふくらんできたのだと思います。嫦娥6号の試料の研究はこれからも続くので、裏側がなぜあんなに違う顔になったのか、その答えに近づく日を楽しみに待ちたいです。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA NASAのアルテミス2号のミッション中、2026年4月6日に撮影された月です。右側の黒っぽい模様(海)が広がる部分が地球から見える表側で、左寄りの部分には地球からは見えない裏側が写っています

この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。

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