空で正体の分からないものを見つけたら、どうするか。日本の防衛省・自衛隊がその手順を正式に決めたのは、2020年9月のことです。きっかけは、アメリカ国防総省が公開した「UFO映像」でした。
日本政府は、地球の外から来たUFOの存在は確認していないと答えてきました。この記事では、その立場と2020年の指示、その後の動きを、確かな事実と説を分けて整理します。
概要
2020年9月14日、当時の河野太郎防衛大臣は、日本の防衛や警備に影響するおそれのある「空中における識別不能の物体」を確認したときの報告について、自衛隊に指示を出しました。見つけたら確実に報告し、できるだけ写真などで記録して、分析するという内容です。
ここでいう識別不能の物体は、宇宙から来た乗り物という意味ではありません。正体が分からない物体全般のことで、ドローンのような新しい技術への備えも念頭に置いたものでした。
確かな事実として分かっていること
「存在を確認していない」という政府の答弁
2007年12月、参議院議員の山根隆治氏が、UFOについての政府の認識をたずねる質問主意書を出しました。政府は12月18日の答弁書で、地球の外から飛んできたと思われる未確認飛行物体の存在は確認していないと答えています。
答弁書によると、航空自衛隊が戦闘機を緊急発進させたときに鳥などを見つけることはあっても、地球の外から来たと思われる物体を見つけた例は承知していないといいます。
ただ同じ日、当時の町村信孝官房長官は記者会見で、個人的にはUFOは存在すると思っているという趣旨を述べ、会場の笑いを誘ったと報じられました。当時の石破茂防衛大臣も、UFOが存在しないと言い切れる根拠はないという考えを示しています。
2018年2月には、衆議院議員の逢坂誠二氏が改めて質問しました。政府は2月27日の答弁書で、存在を確認したことはないとし、日本に飛んできた場合の対応も特に検討していないと答えています。
きっかけはアメリカの映像
2020年4月27日(アメリカ時間)、アメリカ国防総省は、海軍の戦闘機が撮影した3本の映像を正式に公開しました。正体の分からない物体が映った、いわゆる「UFO映像」です。
詳しくはこちら:米国防総省が公開した3本のUFO映像と秘密計画AATIPとは
翌28日の記者会見で、河野大臣は、自衛隊のパイロットはUFOに遭遇したことはないようだが、万が一のときの手順を定めたいと述べました。一方で、自分はあまりUFOを信じていないとも話し、映像を出した真意や分析をアメリカ側から聞きたいという考えを示しています。
2020年9月の大臣指示
河野大臣は、指示を出した翌日の9月15日の記者会見で、その中身を説明しました。報告を確実にすること、できるだけ写真などで記録すること、分析すること。そして、領空侵犯への対応や警戒監視以外の任務中に得た情報も、しっかり分析することです。
河野大臣は、宇宙から来たかどうかではなく、識別できない物体をきちんと記録して分析することが大切だと強調しました。これまでにそうした遭遇をした記録はないことも明らかにしています。
記者から、中東などで使われているドローンによる攻撃も念頭にあるのかと問われると、ないと言えばうそになるという趣旨で答えました。技術が進むなかで、これまでになかったものが生まれる可能性は十分にあるという考えです。
この問題は、2020年8月にグアムで開かれた日米防衛相会談でも、アメリカのエスパー国防長官との間で話し合われました。ただ、詳しい中身は明らかにされていません。
正体不明の白い気球と、3年後の発表
同じ2020年の6月には、宮城県などの空に白い気球のような物体が長い時間浮かび、大きな話題になりました。河野大臣は、自衛隊の気象の部隊のものではないことを確認したとし、安全保障への影響はないと説明しています。また日本に戻ってくる可能性を問われ、気球に聞いてほしいと答えました。
この見方は、のちに大きく変わります。2023年2月14日、防衛省は、2019年11月、2020年6月、2021年9月のものを含め、過去に日本の領空で確認された特定の気球型の飛行物体について、中国が飛ばした無人偵察用気球だと強く推定されると発表しました。2020年6月のものは、宮城県で確認された気球だと報じられています。
政府は2月16日、領空に入って高いところを飛ぶ無人の気球などについて、地上の人の命や財産、航空機の安全を守るために必要なときは、正当防衛や緊急避難にあたらなくても武器を使えるという考え方を示しました。
国会と議員連盟の動き
2024年2月8日の衆議院予算委員会では、林芳正官房長官が、UAP(未確認異常現象)による緊急事態についての質問に、一般論として、事態に応じて官邸に対策室や連絡室を置き、初動対応にあたると答えました。
同じ年の6月6日には、超党派の「安全保障から考える未確認異常現象解明議員連盟」が発足しました。会長は元防衛大臣の浜田靖一氏です。議連は、アメリカ国防総省に設けられたUAPの専門部署、全領域異常対策室(AARO)のような組織を、日本にも作るよう求めています。
2025年5月16日には、議連が当時の中谷元(なかたに・げん)防衛大臣に提言書を手渡し、防衛省の中にUAPの情報を集めて分析する専門部署を作ることや、国民への情報公開を求めました。中谷大臣は、識別できない物体も含めて、ふだんから警戒監視にあたっているという趣旨を説明しています。
語られている主な説
自衛隊員も実は見ているという話
元空将の佐藤守氏は、航空自衛隊のパイロットたちから集めたというUFOの目撃証言を本にまとめています。出版社の紹介によると、証言は100以上にのぼるとされています。
石破氏も2024年5月、自分は見たと言う航空自衛官はきっといるはずだという趣旨を記者団に語ったと報じられています。ただし政府の答弁や大臣の説明では、地球の外から来た物体に出会った記録は確認されていません。
正体は外国の兵器や偵察機器かもしれないという見方
議連の設立趣意書は、UAPが他国の秘密兵器や無人偵察機のようなものなら、日本の安全保障の脅威になりうるとしています。議連の中心メンバーの浅川義治氏は、宇宙人の乗り物を前提にしているわけではなく、ミサイルの実験や鳥の群れなども正体の候補になるという考えを示しています。
今も残る謎
2020年の指示のあと、自衛隊から識別できない物体の報告がどれくらいあったのかは、今回調べた範囲では確認できませんでした。
2025年7月26日の夜には、佐賀県の九州電力玄海原子力発電所で、警備員が小型無人機と思われる3つの光を確認し、九州電力が原子力規制委員会と佐賀県警に通報しました。共同通信によると、佐賀県警は航空機の光をドローンと見間違えた可能性が高いとしつつ、ドローンの可能性も完全には否定できないとしていて、正体ははっきりしていません。
2026年5月28日、議連は、この件で情報を一元化できなかったと指摘し、内閣官房に司令塔の役割を持たせるよう、木原稔官房長官に提言したと報じられています。同じ5月にアメリカ国防総省が公開を始めた資料には、2023年に日本周辺で撮影されたとされる映像もありました。共同通信によると、アメリカのインド太平洋軍が赤外線センサーでとらえた約2分の映像で、国防総省は、決定的な判断ができない未解決のケースと位置づけています。
まとめ
日本政府は国会への答弁書で、地球の外から来たUFOの存在は確認していないとしてきました。そのうえで2020年9月、正体の分からない物体を見つけたら報告し、記録して分析するよう、自衛隊に指示しました。
その後、正体不明とされた気球が中国の偵察用気球と推定され、国会議員からは専門の部署を求める声も上がっています。空の「分からないもの」をどう扱うかは、宇宙の話ではなく安全保障の課題として、今も議論が続いています。
僕のひとりごと
僕がこのテーマで一番おもしろいと思ったのは、2020年に大臣から気球に聞いてほしいと言われた白い気球が、3年後に、中国の偵察用気球だと強く推定されたものの一つだと報じられたことです。笑い話のようだった出来事が、実は安全保障の問題だったと分かると、空を見上げる目が少し変わります。河野大臣が、宇宙から来たかどうかではなく記録して分析することが大事だと強調していたのも、うなずけました。正体が分からないものを笑い飛ばさずに記録しておくことが、いつか答えにつながるのかもしれません。
参考情報
- 防衛省「防衛大臣記者会見」(2020年9月15日)
- 防衛省「防衛大臣記者会見」(2020年4月28日)
- 防衛省「防衛大臣記者会見」(2020年9月8日)
- 防衛省「防衛大臣臨時記者会見」(2020年8月29日、グアム)
- 防衛省「防衛大臣記者会見」(2020年6月19日)
- 防衛省「防衛大臣記者会見」(2020年6月23日)
- 防衛省「過去に我が国領空内で確認されていた特定の気球型の飛行物体について」(2023年2月14日)
- 防衛省「防衛大臣記者会見」(2023年2月17日)
- 参議院「未確認飛行物体に関する質問主意書」(山根隆治、2007年12月10日)
- 参議院「未確認飛行物体に関する質問に対する答弁書」(2007年12月18日)
- 衆議院「未確認飛行物体にかかわる政府の認識に関する質問主意書」(逢坂誠二、2018年2月16日)
- 衆議院「未確認飛行物体にかかわる政府の認識に関する質問に対する答弁書」(2018年2月27日)
- 衆議院「原子力発電所へのドローンとみられる飛行体の侵入とその対応に関する質問に対する答弁書」(2025年8月15日)
- 国会会議録検索システム「第213回国会 衆議院 予算委員会」(2024年2月8日、林芳正官房長官の答弁)
- AP通信(HeraldNet掲載)「Japanese official says he believes UFOs exist」(2007年12月18日)
- AFP通信(Gulf News掲載)「Aliens have never invaded Japan — defence minister」
- 文春オンライン「池上さん、なぜUFOについての答弁書が必要なの?」(2018年3月29日)
- Military.com「Navy Declassifies its Notorious ‘UFO Sighting’ Videos」(2020年4月27日)
- CNN.co.jp「米国防総省、UFO映像3本を正式公開」(2020年4月28日)
- 乗りものニュース「東北の『謎の白い球体』結局何だったの? 考えうるその正体 他国の気球なら領空侵犯か」(2020年7月4日)
- Stars and Stripes「China spy balloons Japan Taiwan」(2023年2月15日)
- The Aviationist「Japan Says It “Strongly Presumes” China Sent Three Spy Balloons Into Its Airspace」(2023年2月15日)
- Al Jazeera「Japan warns China of airspace violation as spy balloons suspected」(2023年2月15日)
- ロイター(ビジネス+IT掲載)「過去に領空内で確認の気球、中国が飛行させた無人偵察用と強く推定=官房長官」(2023年2月15日)
- 自由民主党「気球等の無人機を巡る対処方針明確化 Q&A形式で解説します」(2023年3月3日)
- 日本経済新聞(共同通信)「未確認空中現象UAP、官房長官が答弁 『官邸で初動対応』」(2024年2月8日)
- 日本経済新聞「安全保障の観点からUFOなど議論 超党派議連が発起人会」(2024年5月28日)
- 日本経済新聞「超党派UFO議連が発足 安全保障の観点で専門機関設置めざす」(2024年6月6日)
- 時事ドットコム「UFO議連、宇宙人以外にも備え 安保の脅威、『国の独立守る』【政界Web】」(2024年7月12日)
- イミダス「未確認空中現象(UAP)」(2024年9月11日)
- ロイター(Yahoo News掲載)「Japan lawmakers want govt to guard against security risks of UFOs」(2024年5月29日)
- AFP通信(Gulf News掲載)「Japan lawmakers probe UFO security ‘threat’」(2024年6月6日)
- CBS News「UFO investigation in Japan」(2024年6月6日、AFP通信の記事を含む)
- 日本経済新聞「『UFOの調査部署を』 超党派議連、中谷元防衛相に提言」(2025年5月16日)
- 東スポWEB「UFO議連が中谷元防衛相に直談判 未確認異常現象解明の日本版AARO設置なるか」(2025年5月16日)
- 講談社「実録・自衛隊パイロットたちが目撃したUFO 地球外生命は原発を見張っている」(佐藤守、講談社+α新書の紹介ページ)
- 九州電力「当社の核セキュリティに係る主な取組みについて」(2026年3月16日、PDF)
- 九州電力「玄海原子力発電所における飛行中の機体が発する3つの光を確認した事案を踏まえた当社の対応状況について」(2025年9月16日、佐賀県環境放射能技術会議の資料、PDF)
- 共同通信(千葉日報掲載)「目撃の光、原子炉接近か 玄海原発、直後に記録 正体今も不明」(2025年10月9日)
- 文春オンライン「日本のドローン戦能力は北朝鮮以下…!? 玄海原発ドローン侵入事案で明らかになった国防の“危うすぎる現状”」(2025年8月22日)
- 共同通信(熊本日日新聞掲載)「議連、UFO対応に司令塔機能を 官房長官に提言」(2026年5月28日)
- 共同通信(秋田魁新報掲載)「米国防総省、UFO資料公開開始 月面や日本周辺でも目撃?」(2026年5月9日)
- 日本経済新聞「米国防総省がUFO資料公開 月面上で宙に浮く物体、日本周辺で目撃も」(2026年5月9日)
アイキャッチ画像:U.S. Air National Guard photo by Senior Airman Christa Anderson(パブリックドメイン、Wikimedia Commons経由) 2023年2月、アメリカ・グアムのアンダーセン空軍基地で行われた共同訓練「コープ・ノース」で撮影された、航空自衛隊のF-15戦闘機です。記事に出てくる出来事の写真ではありません
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