ニュー・ホライズンズが見た冥王星の素顔 ハートの平原と氷の山

ニュー・ホライズンズが見た冥王星の素顔 ハートの平原と氷の山 宇宙ニュース
NASA 2006年1月19日、ニュー・ホライズンズを載せたアトラスVロケットが、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられたときの写真です

2015年7月14日、NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」が冥王星のすぐそばを通り過ぎました。人類の探査機が、初めて冥王星を間近で調べた日です。

届いた画像には、ハート形の白い平原や、氷でできた高い山、青く見えるもやが写っていました。この記事では、探査で確かめられたことと、今も議論が続いている説を分けて紹介します。

概要

ニュー・ホライズンズは、NASAの冥王星探査機です。探査機の運用はアメリカのジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所が行い、研究の責任者はサウスウエスト研究所のアラン・スターンが務めています。

打ち上げは2006年1月19日(アメリカ東部時間)で、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地からアトラスVロケットで飛び立ちました。2007年2月には木星のそばを通り、その重力を利用して速度を上げています。

そして約9年半の旅の末、2015年7月14日に、冥王星の表面から約1万2500キロのところを通過しました。冥王星は1930年に見つかった天体で、2006年に惑星から「準惑星」へと分類が変わっています。

詳しくはこちら:プラネット・ナインとは?太陽系の果てに第9惑星は隠れているのか

確かな事実として分かっていること

冥王星の本当の大きさ

最接近の前日の2015年7月13日、探査チームは冥王星の直径を約2370キロと発表しました。それまでの見積もりより少し大きく、ほぼ同じ大きさとされていた準惑星エリス(直径約2326キロ)を上回っていました。

これで冥王星は、海王星より外側で知られている天体の中で一番大きいことがはっきりしました。一番大きな衛星カロンの直径は約1208キロで、冥王星の半分ほどです。

ハートの西半分は窒素の氷の平原

冥王星の写真で一番目を引くのが、ハート形の明るい地域です。2017年に国際天文学連合が正式な名前を認め、冥王星を見つけたクライド・トンボーにちなんで「トンボー領域」と呼ばれています。

ハートの西半分は「スプートニク平原」です。名前は、1957年に旧ソ連が打ち上げた世界初の人工衛星スプートニク1号に由来します。周りより3から4キロほど低いくぼ地で、窒素を中心とした氷で埋まっています。

平原にはクレーターが見つからず、とても新しい表面だと考えられています。表面は都市ほどの大きさの区画に分かれていて、氷がゆっくりと対流しているしるしとみられています。窒素の氷が、氷河のように流れている様子もとらえられました。

水の氷でできた山

最接近の翌日の7月15日には、高さ3000メートルを超える山々が見つかったと発表されました。冥王星の表面をおおう窒素やメタンなどの氷はやわらかすぎて、高い山をつくれません。そのため、山の土台は水の氷だと考えられています。

マイナス200度を下回る冥王星では、水の氷は岩のように硬くなります。発表では、これらの山ができたのは1億年前より後と見積もられました。太陽系の長い歴史から見ると、ごく最近できた若い地形です。

青く見えるもや

冥王星には、窒素を主な成分とする薄い大気があります。2015年10月に公開されたカラー画像では、大気の中のもやが青く写っていました。

もやの粒は、太陽の光で窒素やメタンが反応してできた、すすのような細かい粒だと考えられています。この粒が地表に降り積もり、冥王星の赤っぽい色のもとになっているとみられています。

トンボーの遺灰と1年以上かけて届いたデータ

ニュー・ホライズンズには、1997年に亡くなったトンボーの遺灰が約1オンス(約28グラム)、小さな容器に入れて積まれています。容器には、冥王星を見つけた人であることなどが刻まれています。

観測データは量がとても多く、探査機から少しずつ送られました。最後のデータが地球に届いたのは、最接近から1年以上たった2016年10月25日のことです。

さらに遠くの天体アロコスへ

冥王星を過ぎたニュー・ホライズンズは、2019年1月1日に、さらに遠くの天体「アロコス」から約3500キロのところを通過しました。探査機が近くで調べた天体としては、これまでで最も遠いものです。

アロコスは長さ35キロほどで、2つの天体がくっついた雪だるまのような形をしていました。2つはゆっくりと静かに合わさったと考えられ、太陽系ができたころに天体がどう生まれたのかを知る手がかりになっています。

2026年、最長の冬眠から目覚める

ニュー・ホライズンズは今も動いています。2025年8月7日に、地上からの操作やデータの受け取りを休む「冬眠」に入り、2026年6月23日に、1年近くに及んだこれまでで最も長い冬眠から無事に目覚めました。

このときの地球からの距離は約95億キロです。今は宇宙のちりや、太陽から吹き出す粒子などを測っています。NASAは2023年に、海王星の外側に氷の小天体が集まる「カイパーベルト」を探査機が出ると見込まれる、2028年から2029年まで運用を続ける計画を示しました。

語られている主な説

地下に海があるという説

スプートニク平原は、衛星カロンのほぼ反対側にあります。2016年に科学誌ネイチャーに載った研究の一つは、この位置と、平原の下の重さのかたよりを説明するには、地下に液体の水の海があると考えるのが最もよいと主張しました。

この考えでは、平原の下に海の水がせり上がり、窒素の氷も積もって重くなったことで、冥王星の向きが変わり、平原がカロンの反対側に落ち着いたとされています。

海はないかもしれないという説

一方、2024年には、スイスのベルン大学やアメリカのアリゾナ大学などのチームが、科学誌ネイチャー・アストロノミーに別の考えを発表しました。冥王星ができて間もないころ、直径600キロを超える天体が、斜めからゆっくりとぶつかってスプートニク平原ができたというものです。

コンピューターのシミュレーションでは、ぶつかった天体の芯が冥王星の中に残り、それが重さのかたよりになるとされています。これなら海がなくても説明がつくため、チームは、地下の海はないか、あってもとても薄いのではないかとしています。

液体の窒素がしみ出しているという説

2026年7月には、スターンらのチームが2015年の画像を調べ直した論文を発表しました。スプートニク平原の北の端で、区画のあいだに見える暗い筋やしみは、地下から上がってきた液体の窒素で、表面が時々ぬれたためではないかというものです。

冥王星の気温や大気では、窒素の雨は降らないとされています。そのため、チームは氷河の底で窒素がとけ、割れ目を通って上がってきたと考えています。NASAは、最近まで液体が流れていたことを示す初めての証拠としていますが、論文の題名にも「可能性」とあるとおり、まだ確定した話ではありません。

今も残る謎

一番の謎は、冥王星を温めている熱がどこから来ているのかです。冥王星には、大きな惑星の重力で中を温められる仕組みがありません。それなのに、若い山や流れる氷河が見つかりました。

2022年には、スプートニク平原の南西にある高さ1から7キロのドームの集まりが、水の氷を含む物質が地下から押し出されてできたものとみられるという研究も発表されています。地下の海があるのかどうかも含めて、冥王星の中がどうなっているのかは、まだ分かっていません。

まとめ

2015年7月14日、ニュー・ホライズンズは冥王星を初めて間近で観測しました。窒素の氷でできたハート形の平原や水の氷の山、青いもやなどから、冥王星は小さくても長いあいだ活動を続けてきた天体だと分かりました。

一方で、地下に海があるのか、熱はどこから来るのかといった謎は残っています。探査機は今も、冥王星よりはるか遠くで観測を続けています。

僕のひとりごと

僕が一番心をつかまれたのは、冥王星を見つけたトンボーの遺灰が、探査機と一緒に冥王星のそばを通ったという話です。見つけた人が、自分の名前の付いたハートのすぐ近くまで旅をしたと思うと、胸が熱くなります。

それに、2015年の画像から、2026年になっても液体の窒素の跡かもしれないものが見つかるのもすごいですよね。たった一度の通過で集めたデータが、今も新しい驚きをくれることに、探査のロマンを感じます。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA 2006年1月19日、ニュー・ホライズンズを載せたアトラスVロケットが、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられたときの写真です

あわせて読みたい

生命はどこで生まれたか、高井研氏が語る深海熱水噴出孔とLUCA
JAMSTECの高井研氏が、生命は深海熱水噴出孔で生まれたという見方や、全生物の共通祖先LUCAより前にいたかもしれない遺伝子を持たない代謝生命、高温で増える微生物、土星の衛星エンケラドスでの生命探査について語った動画の内容を紹介します。

この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました