系外惑星K2-18bの「生命の兆候」は本物か?DMSをめぐる論争

系外惑星K2-18bの「生命の兆候」は本物か?DMSをめぐる論争 未解決ミステリー
NASA, CSA, ESA, J. Olmstead (STScI), N. Madhusudhan (Cambridge University)(CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ 、ESA/Webb経由) K2-18b(手前)と、主星の赤色矮星K2-18(奥)を描いた想像図です

2025年4月、太陽系の外で生命の手がかりが見つかったかもしれない、というニュースが世界をかけめぐりました。舞台は、地球から約120光年離れた惑星K2-18bです。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で、地球では主に生き物が作り出す気体の兆候が、この惑星の大気に見つかったというのです。ところが発表の直後から、ほかの研究者による反論が相次ぎました。この記事では、K2-18bの「生命の兆候」をめぐる論争を、確かな事実と語られている説に分けて整理します。

概要

K2-18bは、しし座の方向にある赤色矮星(小さく温度の低い恒星)K2-18の周りを回る惑星です。2015年に、NASAのケプラー宇宙望遠鏡による「K2」と呼ばれる観測で見つかりました。

質量は地球の8倍あまり、半径は地球の2倍あまりで、地球と海王星の中間の大きさです。このタイプの惑星は銀河系にたくさんありますが、太陽系にはないため、どんな姿なのかよく分かっていません。

K2-18bは、液体の水が存在できるかもしれない「ハビタブルゾーン」の中を回っています。そのため、生命を探す観測の有力な候補として注目されてきました。

観測に使われたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASA、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁(CSA)が共同で運用する、赤外線を得意とする宇宙望遠鏡です。

詳しくはこちら:ウェッブ宇宙望遠鏡が見つけた初期宇宙の銀河 ビッグバン2.8億年後の姿

確かな事実として分かっていること

惑星の大気を星の光で調べる

K2-18bは、地球から見て主星の手前を定期的に横切ります。このとき、主星の光の一部は惑星の大気を通り抜けてから地球に届きます。

その光を波長ごとに細かく分けて調べると、大気に含まれる気体の手がかりが得られます。気体の種類によって、吸収する光の波長が決まっているからです。

2023年、メタンと二酸化炭素を検出

2023年9月、イギリスのケンブリッジ大学のニック・マドゥスダン教授らのチームは、ウェッブの観測で、K2-18bの大気にメタンと二酸化炭素を見つけたと発表しました。一方で、アンモニアはほとんど見つかりませんでした。

チームは、この結果が、水素の多い大気の下に水の海が広がる「ハイセアン惑星」という考えと合うとしています。ハイセアン惑星は、マドゥスダン教授らが2021年に提唱した惑星のタイプです。

このときDMS(ジメチルスルフィド)という気体のかすかな兆候も報告されましたが、チームは、まだ確かではなく、さらに確かめる必要があるとしていました。

DMSはどんな気体か

DMSは、硫黄を含む有機化合物です。地球では主に海の植物プランクトンなどの生き物が作り出していて、大気の中にある量は、分子10億個に1個ほどです。

地球の大気にあるDMSは、ほぼすべてが生き物から出たものとされています。そのため、DMSは生命の存在を示す手がかり(バイオシグネチャー)の候補と考えられてきました。

2025年、別の観測装置で再び兆候

2025年4月、マドゥスダン教授らは、ウェッブの中間赤外線観測装置MIRIによる新しい観測の結果を、専門誌アストロフィジカル・ジャーナル・レターズで発表しました。DMSか、よく似た気体のDMDS(ジメチルジスルフィド)の、どちらかまたは両方の兆候が見つかったというものです。

チームの見積もりでは、その量は大気の分子100万個のうち10個以上で、地球の大気の数千倍にあたります。チームは、海に生き物があふれるハイセアン惑星だと考えるのが、データを最もよく説明できるとしました。

「発見」の基準には届いていない

ただし、結果の確かさは「3シグマ」で、偶然このようなデータになる確率が約0.3%という水準でした。科学の世界で発見と認められるには、ふつう「5シグマ」(偶然の確率が約0.00006%未満)が必要とされます。

チーム自身も、生命を見つけたと主張しているわけではなく、まだ知られていない化学反応で説明できる可能性もあるとしています。5シグマに届かせるには、ウェッブでさらに16から24時間の観測が必要だと見積もっていました。

相次いだ反論

発表から1週間もたたない2025年4月22日、オックスフォード大学の研究者が、同じデータを別の方法で調べ直した論文を公開しました。データは何の特徴もない平らなものとしても説明でき、はっきりした証拠とはいえないという内容です。

5月には、シカゴ大学のチームが、近赤外線と中間赤外線のデータを合わせて解析し、DMSやDMDSがあるという十分な証拠はないと発表しました。エタンなど、似た光の吸収を示す別の分子でも、同じくらいよくデータを説明できるとしています。

7月には、NASAのジェット推進研究所の研究者が率いるチームが、2024年から2025年にかけての4回の新しい観測を加えた解析を公開しました。メタンと二酸化炭素ははっきり確認された一方、DMSの信号はわずかで、確かな検出とはいえないものでした。このチームには、マドゥスダン教授も加わっています。

DMSは生命がなくてもできる

DMSが生命の手がかりになるという前提にも、疑問が出てきています。2024年には、ESAの探査機ロゼッタが調べた彗星のデータから、DMSが見つかったとする研究が発表されました。生き物のいない彗星でも、DMSができていたことになります。

同じ2024年には、アメリカのコロラド大学ボルダー校のチームが、メタンと硫化水素に紫外線を当てる実験で、生き物なしにDMSを作り出しました。2025年には、星と星の間に漂うガスの雲からも、DMSが見つかったと報告されています。

語られている主な説

海に生命がいるハイセアン惑星だという説

マドゥスダン教授らは、K2-18bには水素の多い大気の下に海があり、そこにすむ生き物がDMSを作っているという説を示しています。チームはその後、650種類以上の分子を調べる研究を行い、DMSは今も有望な候補だとしました。ただし、確かめるにはさらに観測が必要だともしています。

生き物の住める表面がない「ミニ海王星」だという説

2024年に発表された研究では、K2-18bは厚いガスに包まれたミニ海王星で、生き物が住める表面はないという見方が示されました。この説では、メタンや二酸化炭素は大気の奥の高温の場所でできて、上空まで運ばれてくると説明されています。

マグマの海があるという説

同じ2024年には、惑星の表面が水ではなくマグマ(溶けた岩石)の海だとしても、観測された大気をおおむね説明できるという研究も発表されました。K2-18bは液体の水があるには熱すぎるかもしれない、という指摘もあります。

今も残る謎

そもそも、K2-18bの大気にDMSが本当にあるのかも、まだ分かっていません。遠い惑星のかすかな光からごくわずかな気体を読み取るため、データの処理や比べるモデルの選び方で、結論が分かれてしまうのです。

シカゴ大学のチームは、DMSの特徴があるかどうかを3シグマの確かさで見分けるだけでも、中間赤外線での観測をさらに20回以上重ねる必要があると見積もっています。

DMSが確かにあったとしても、それが生命によるものかという問題も残ります。K2-18bが海のある惑星なのか、ミニ海王星なのかも分かっていません。2026年に入っても、DMSがなくても観測を説明できるとする研究が発表されるなど、議論は続いています。

生命の手がかりとされた気体をめぐっては、2020年に金星の雲の中から見つかったと発表されたホスフィンでも、同じように大きな論争が起きました。

詳しくはこちら:金星のホスフィン論争とは?雲の中に生命の手がかりはあるのか

まとめ

2025年4月、K2-18bの大気に、地球では主に生き物が作るDMSなどの兆候が見つかったと発表されました。しかし確かさは発見の基準に届かず、ほかのチームの解析では証拠は不十分だという結果が相次ぎました。DMSが生命なしでもできることも分かってきています。

K2-18bは生命あふれる海の惑星なのか、それとも生命のいない惑星なのか。答えを出すには、さらに多くの観測が必要です。

僕のひとりごと

120光年も先の惑星の空気を、星の光から調べられるというだけで、僕はわくわくしてしまいます。同時に、発表から1週間もたたずに反論が出て、同じデータから違う結論が出てくるのを見て、生命を見つけることの難しさも感じました。

でも、たくさんの研究者が確かめ合うことこそが、本当の発見への近道なのだと思います。K2-18bの海の話が本物なのかどうか、答えが出る日を楽しみに待ちたいです。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA, CSA, ESA, J. Olmstead (STScI), N. Madhusudhan (Cambridge University)(CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ 、ESA/Webb経由) K2-18b(手前)と、主星の赤色矮星K2-18(奥)を描いた想像図です

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