金星はなぜ逆向きにゆっくり回るのか 自転1回が1年より長い惑星の謎

金星はなぜ逆向きにゆっくり回るのか 自転1回が1年より長い惑星の謎 未解決ミステリー
NASA/JPL 探査機マゼランのレーダーで調べた金星の地表を、コンピューターで球の形に描いた画像です。色は、旧ソ連の探査機ベネラ13号と14号が撮影したカラー画像をもとに付けたものです

地球のすぐ内側を回る金星は、大きさが地球とほぼ同じで、「地球の兄弟星」と呼ばれることもあります。ところが、その回り方は地球とまったく違います。

金星は、ほかの多くの惑星と逆向きに、しかもとてもゆっくり自転しているのです。なぜこんな回り方になったのでしょうか。この記事では、分かっている事実と、語られている主な説を整理します。

概要

金星は、太陽から2番目の惑星です。直径は約1万2100キロメートルで、地球の約95%の大きさがあります。

金星が1回自転するのにかかる時間は、地球の日数で約243日です。太陽の周りを1周する約225日よりも長く、自転の1回が1年より長い、めずらしい惑星です。しかも、回る向きは地球などと逆になっています。

なぜ逆向きに、これほどゆっくり回っているのかは、まだはっきりとは分かっていません。大昔の巨大な衝突によるという説や、太陽の重力と厚い大気の働きによるという説などが出されています。

確かな事実として分かっていること

太陽が西から昇る惑星

太陽系の惑星の多くは、太陽の周りを回るのと同じ向きに自転しています。ところが金星は、それとは逆向きに自転しています。そのため、もし金星の地表に立てたとすると、太陽は西から昇り、東へ沈むことになります。

NASAによると、多くの惑星と逆向きに自転している惑星は、金星と天王星の2つだけです。天王星は、自転軸が約98度も傾いた、横倒しのような姿で回っている惑星です。

詳しくはこちら:天王星はなぜ横倒しで回るのか 自転軸が98度傾いた惑星の謎

日の出から次の日の出までは約117日

金星の自転の1回は約243日ですが、日の出から次の日の出までの長さは約117日です。金星は自転とは逆向きに太陽の周りを回っているため、太陽が空をひと回りする時間は、自転の1回より短くなるのです。赤道での自転の速さは秒速約1.8メートルで、時速にすると約6.5キロメートルしかありません。

自転軸はほとんど傾いていない

地球の自転軸は約23度傾いていて、それが季節を生んでいます。一方、金星の自転軸の傾きは約3度しかなく、はっきりした季節はありません。

ただし、逆向きに回っていることを表すために、金星の自転軸の傾きを約177度とすることもあります。これは、ほぼ真っ逆さまになったコマが回っている姿にあたります。

厚い雲の下の自転は、電波で分かった

金星は厚い雲に覆われていて、望遠鏡で地表の模様を見ることができません。そのため、どれくらいの速さで自転しているのかは、長いあいだ分かりませんでした。いつも同じ面を太陽に向けて回っている、という考えもありました。

答えを出したのは、地球から金星に電波を送り、跳ね返ってきた電波を調べるレーダー観測です。1960年代の初め、アメリカなどのレーダー観測によって、金星が逆向きに、とてもゆっくり自転していることが分かりました。この結果は、天文学者たちを驚かせました。

1日の長さは少しずつ変わっている

金星の自転の速さは、いつも同じではないことも分かってきました。2012年には、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機ビーナス・エクスプレスの観測から、自転の1回の長さが、1990年代の初めにNASAの探査機マゼランが測った値より約6.5分長くなっていたと発表されました。

2021年には、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などの研究チームが、2006年から2020年にかけて、地上から金星に電波を21回送った観測の結果を発表しました。平均の自転の長さは243.0226日でしたが、測るたびに少なくとも20分ほどの違いがあったといいます。

研究チームは、地表の気圧が地球の約90倍にもなる金星の厚い大気が、地面とのあいだで回転の勢いをやりとりし、自転を速めたり遅くしたりしていると考えています。同じことは地球でも起きていますが、1日の長さの変化は1000分の1秒ほどにすぎません。

大気は自転の約60倍の速さで回っている

金星では、地面はとてもゆっくり回っているのに、上空の大気は猛スピードで回っています。高度70キロメートルあたりの雲の上のほうでは、自転と同じ向きに秒速100メートルほどの風が吹き、大気はわずか4日ほどで金星を1周します。

これは自転の約60倍の速さで、「スーパーローテーション」と呼ばれています。1960年代に見つかった現象ですが、なぜこれほどの速さが保たれているのかは、長いあいだ謎でした。

この謎に挑んだのが、2015年12月に金星を回る軌道に入った、日本の金星探査機あかつきです。2020年4月、北海道大学やJAXAなどの研究グループは、あかつきの観測データから、昼に温められて夜に冷えることで大気中に生まれる「熱潮汐波」が、赤道に近い地域で大気を加速していると発表しました。

語られている主な説

巨大な天体がぶつかったという説

よく知られているのが、金星ができて間もないころ、大きな天体がぶつかり、自転の向きや速さが大きく変わったという説です。地球の月も、火星くらいの大きさの天体が地球にぶつかってできたという説が有力です。

2006年には、アメリカのカリフォルニア工科大学の研究者たちが、金星には大きな衝突が少なくとも2回あったとするモデルを学会で発表しました。1回目の衝突で衛星が生まれ、その後の2回目の衝突で自転の向きが逆になったというものです。

自転が逆向きになると、潮汐の働きで衛星はだんだん金星に近づき、最後は金星にぶつかって一体になってしまうといいます。研究者たちは、今の金星に衛星がないことと、ゆっくりとした逆向きの自転を、このモデルで説明できるとしました。ただし発表当時、この説はまだ確かめられていないとされていました。

太陽の潮汐と大気の潮汐が引っぱり合ったという説

一方で、衝突のような大事件がなくても、長い時間をかけて今の回り方になったという説もあります。カギになるのは「潮汐」の働きです。

太陽の重力は、金星の体をわずかに変形させ、自転にブレーキをかけます。この働きだけなら、金星はいずれ、いつも同じ面を太陽に向けて回るようになるはずです。ところが金星には厚い大気があり、太陽に温められた大気のかたよりが、ブレーキとは逆向きの力を生むことがあります。この2つの力が引っぱり合った結果、今のゆっくりした逆向きの自転に落ち着いたと考えるのです。

2001年、フランスの研究機関の研究者たちは、ほかの惑星の重力の影響なども計算に入れて、金星の自転が最後に落ち着く状態は4通りしかないとする研究を、科学誌ネイチャーに発表しました。

この研究によると、今の金星の姿には2つの道すじでたどり着けます。自転軸が少しずつ傾いて、ついにはひっくり返る道すじと、自転軸はほとんどそのままで、自転がだんだん遅くなって止まり、逆向きに回り始める道すじです。研究者の一人は、どちらの場合も巨大な衝突は必要ないと説明しています。

今も残る謎

金星の逆向きの自転が、大昔の衝突によるものなのか、潮汐が長い時間をかけて作り出したものなのかは、まだ決着がついていません。潮汐の説でも、2つの道すじのどちらを通ったのかは、今の金星の姿からは見分けにくいとされています。

また、厚い大気が地面の回転にどれほど影響しているのかも、さらに詳しく調べる必要があります。ESAは、金星の中心部から上空の大気までを調べる探査機EnVision(エンビジョン)の開発を進めていて、2030年代の初めに打ち上げる予定です。重力の分布などを詳しく測る計画で、金星の内部のようすが分かれば、自転の歴史を考える手がかりも増えるかもしれません。

まとめ

金星は、多くの惑星と逆向きに、約243日もかけてゆっくり自転しています。一方で、上空の大気は自転の約60倍の速さで回り、1日の長さも少しずつ変わっています。

なぜこんな回り方になったのかについては、巨大な衝突の説や、太陽と大気の潮汐が引っぱり合った説などがあり、答えはまだ出ていません。地球の兄弟星の謎は、まだまだ奥が深そうです。

僕のひとりごと

僕がいちばん驚いたのは、地面はゆっくり回っているのに、空の上では大気が4日ほどで星をひと回りしていることです。しかもその厚い大気が、地面の回り方にまで影響しているかもしれないと知って、空と大地が綱引きをしているような光景を思い浮かべました。巨大な衝突という大事件なのか、長い時間をかけた潮汐の綱引きなのか、どちらの物語にもロマンがあります。答え合わせの日を、気長に待ちたいと思います。

参考情報

アイキャッチ画像:NASA/JPL 探査機マゼランのレーダーで調べた金星の地表を、コンピューターで球の形に描いた画像です。色は、旧ソ連の探査機ベネラ13号と14号が撮影したカラー画像をもとに付けたものです

この記事は公開時点の情報をもとにまとめています。研究や調査は日々進んでいるため、新しい発見で内容が変わることがあります。誤りに気づいた方は、コメントで教えていただけるとうれしいです。

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